【1-7-1】 暗染
泥のように眠り目を覚ます。私は何となく目を開けるのを躊躇していた。目を開けて見慣れぬ天井を見てしまったら、昨日までの出来事が現実であると受け入れざるを得ない。む〜と唸りながらどうするか考える。ただ何か変わるわけでもないし、私は観念して目をあけた。
――目を開けた先には目と目が触れ合うような距離にモノがいた。
「え!? ちょっ!」
起きあがりぶつかりそうになった私をモノは器用に避ける。
「セーフ。スーニャ、起きた?」
そんな何ともないような雰囲気で……。私は寝起きから心臓バクバクしたよ……。
「モノ、おはよ。お陰様で一瞬で目が覚めたよ……」
「よかった。ご主人に報告してくる」
テテテと小走りで部屋を出ていく。あとで同じ起こし方はやめてくれと頼んでおこう……。
暫くしてリムさんが部屋に入ってきた。
「起きたか。具合はどうだ?」
身体の調子を確かめる。やはりまだ節々が痛む。
「……身体へのダメージが大きいな。ただここまで回復しているのは素直に驚くべきことだ」
彼女に簡単に診察をして貰ったが命に別状は無いようだった。
「ひとまずジーに治してもらうか。モノ、ジーを呼んでこい」
「承知ー」
またモノが外へ出ていく。しかし治してもらうとはどういう意味だろうか。
「ジーは魔法に秀でている。攻撃系もそうだが治癒系も扱える。貴様の怪我もすぐ良くなるだろう」
魔法の系統の話は聞いていたが、治癒は攻撃系よりも更に高度だと聞く。村でも扱えるものはいなかった。程なくしてジーが部屋に入ってくる。『はーい。じゃあチャチャっとやっちゃいますねー』なんて言いながら魔法を唱える。確かに効果はあるようで、私は身体の痛みが収まっていくのを感じた。
「治癒の魔法は便利だけど傷は傷だから。ちゃんと治るまで安静にしておいてくださいね?」
ジーからあまり動かないようにとの忠告を受ける。みんなも私が休めるようにと部屋を後にする。私は私でまだ疲れがあるのかすぐに眠りに落ちた。
そこから数日間は私は怪我の療養に努めた。毎日ジーから魔法を受け、身体を動かすのは最低限のみ。なんだか申し訳ない気持ちになりながらも、リムさんから『怪我を治すのが最優先だ』と言われてしまうと従わざるを得なかった。そしてさらに数日後、ようやく一通りの怪我は回復した。
「……なんだか早くないですか? というか普通ではあり得ないんじゃ」
ジーが怪訝そうな顔をしている。確かにジーの魔法で回復が加速しているとしても普通ではあり得ないだろう。ほぼ瀕死の状態だったのだ。ただこれはスーニャとしての頑強さを引き継いでいるのだろう。以前から怪我をしにくく嘘のように傷が治りやすかった。
「ククッ。いいさ。これでようやく進められる」
リムさんが不穏な笑みを浮かべている。嫌な予感がするものの、私に断るすべはなかった。
「スーニャ、貴様にはまずモノと一度立ち会ってもらう」
え? モノと? 予想外の言葉に面食らう。私の驚いた表情を見て取りリムさんが説明を続ける。
「モノはジーとは対照的に白兵戦に特化している。だから貴様が何か心配する必要は全くない。――むしろ殺すつもりでやれ」
しかしそんなことを言われても、とモノに顔を向ける。彼女は相変わらずの無表情のままに飛んでいる虫を眺めていた。コラコラ貴方の話をしているんだよー?
とにかく私たちは揃って家を出て目の前の広場に集まる。与えられた道具は木剣のみ。私は仕方なしに構えモノと対峙した。彼女はというと特に構えもせず同じく剣をただ持っているだけだった。
「よし、では両者はじめ」
リムさんの声で開始の合図がなされる。仕方ないから怪我させない程度にちょっといなしてあげるか。
……なんて思っていた私が馬鹿だった。結果的に私はモノに瞬殺され新たな怪我をこさえることなり、二人してジーに怒られた。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――
評価・ブックマーク・ご感想という形で、どうかあなたの想いをお残しください。続きを書く励みになります。
(……でないと、力尽きるかもしれません)
※評価は星マーク、ブクマはお気に入りからお願いします。




