【1-6-2】
「それで、貴様動けるのか?」
至極当然の質問が投げ掛けられるが、私は素直に自分の状況を言う他なかった。
「いや、正直指一本も動かせないです……」
「まったく……」
いや死ぬほど重症だったのだから仕方ないじゃんか……。
その後リムさんは従者? と思わしき子を呼び、私は簡単な手当てを受け彼女に運んでもらう事になった。
「すみません……」
「いい。ご主人の命令」
この従者の子もリムさんと同じくらいの年齢だろうか。何とも驚いたことに猫耳少女だった。真っ黒な毛並みに黒いドレス、全身黒に統一された彼女はモノという名前らしい。その子におんぶしてもらってるのだから、周りには見られたくない姿だけれども。
「モノさんは――「――モノでいい。敬語も不要」
「……はい。じゃあ聞いてもいい?」
「ん」
小さく頷く。その様相からもそうだがまるで人形のようだった。キャー可愛いーなんて、元気いっぱいだったら言っていたかもしれない。
「あの人は、何者かな?」
「あの人?」
「貴方のご主人様? なのかな」
後ろを歩いているリムさんへ顔を向ける。改めて見るとゾッとする程の美しさだった。白銀と淡い青が混ざり合った髪が月明かりに反射し幻想的ですらある。名前はリムということだが、……いやまさかと思う。確かに、この隠れ里の近くにいて私達を見守っているという伝承はあったけれど。
ふと自分の名前を名乗っていない事に気づく。リムさんもまた気づいたのかこちらへと向かってきた。
「そういえば貴様の名前は?」
「スーニャといいます。それと貴方って……」
「スーニャ、スーニャ。それはまた、いい名前だ。貴様が為すことに相応しい」
なんだかご機嫌そうだ。理由は分からないが名前を褒められたのは久方ぶりだった。
「ありがとうございます。それでリムさんって……」
俄かには信じられない。――その名前を持つはアヌ神の手足となるべく作られた太古の神々、その中の一柱。姉のリムの、名前の由来となった存在。
「私? 私は名乗った通りだが? ……ああ、貴様達にとっては確かに畏れ多い存在になるか。別に気にしなくていいぞ」
気を遣わなくていい、なんて言われても正直困る。やはり伝承に伝わる神その人なのだ。私は驚きのあまり数秒間言葉が出てこなかった。
「……まさか会う日がくるとは思わなかったです」
「ふん。別にそんな偉いものでもないがな」
「ご主人。とっても偉い。モノとジーを作ってくれた」
モノがフンスと胸を張っている。思わず頭を撫でたくなる愛らしさだった。しかし作ってくれた、というのはどういう意味だろう。疑問に思っているとリムさんが答えてくれた。
「モノは私の目的の副産物だ」
「目的?」
「ああ」
私はまだ意味を図りかねていた。
「この世界には私達六柱の神々を頂点としたピラミッドが敷かれている。その下には賢人が、そして更に人族や亜族がいる。アヌが作ったこの図式は覆ることはない」
『一部イレギュラーはあるがな』と話を続ける。まさか神々と呼ばれる存在そのものから、世界の図式に関わる話を聞くことになるなんて。ただその興味深さに私は耳を傾けていた。
「神々に敵う存在は、存在しえない。賢人、人族、亜族も、我々に敵うことはない。私達はこの世界において究極ともいえる存在だからな」
過去歴史の上で神々の逸話は散見されている。私はサーヤから話を聞くのみであったが、その逸話が脚色されていないものであれば彼女の話も信ぴょう性があった。神の手によって一夜で滅ぼされた国もあったはずだ。
「だが、私達でさえも言ってしまえばアヌの作った枠組みに従ってるだけだ。貴様らと何も変わらん。究極と言われる存在も所詮はアヌの玩具にすぎん。しかしそれではつまらんだろう? 私は私の力でこの図式をぶっ壊してやりたい。アヌを超えてやりたい。
だから私は、私の手で、私達を超える存在を創り上げることにしたんだ。そうすることで、私はアヌよりも上位の存在となる」
熱に浮かされたように話している姿に背筋が冷える。そして私は何故助けられたのか、ここでようやく理解した。
「つまり、私は……」
「ああ。協力して貰うぞ。私の目的のために」
『嫌とは言わせんぞ?』なんて話しつつ、華のような笑みを浮かべている姿はまさしく世紀の美少女だ。狂気が宿ったその目を除けば、だが。
ここで会話は終わり、後はただただ彼女達の自宅へ向けて歩き続けた。
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