【1-6-1】 運命
雨が降っている。雨粒が身体に触れる感覚からそうだと認識した。身体にぶつかった雨粒は、髪や頬、体から伝い落ちていく。長い時間雨に晒されていたのか身体は酷く冷えていて、そのためなのか両手足の感覚はなかった。ふと煙の匂いが鼻につく。雨の中にあっても匂いまでを消すことは出来なかったのだろう。
私はこの段階でようやく目を開けた。目に広がったのは真っ暗な闇で、まだそこまで時間が経っていないことが分かった。雨雲から漏れた月夜の明かりから、少しずつ目が慣れてくる。あたりには血痕が至る所に残されていて、遠くにはトーリとカーナの遺体が見える。全ては現実であったと思い知る。夢であって欲しいという甘い思いは早々に打ち砕かれた。
「ーー◾️◾️◾️◾️◾️ァ”ァ”ァ”ァァァァァァ!!!!」
声にならない声をあげる。身体の傷口は塞がっていたもののまだ癒えてはいないようで痛みが走った。それでも叫ぶのをやめなかった。そうしていなければ狂ってしまいそうだった。みんな死んでしまった。父さん母さんも、トーリもカーナ、サーヤ、ナロウも。私は、いや私たちは、一人だけになった。二人の生命力を足し合わせて、たった一人だけが生き延びてしまった。
ただただ絶望感と喪失感に襲われる。このまま意識を手放してしまいたくなる。何もかもから逃げ出したくなる。目を背けたくなる。
――それでも私はそうする事はできない事、そうしてはならない事を理解していた。私は、俺は、約束をしたのだから。心に誓ったのだから。
まずはこの場を生き延びなければならない。しかし私の身体は全くいう事を聞かず、指一本すら動かす事はできなかった。ただこのままでは死んでしまうのも時間の問題だった。目を瞑りどうすべきかと思案する。
だがその時間は長くは続かなかった。ありえない事であるが、声を掛けられたのだ。
「――貴様、なぜ生きている?」
一瞬まだガブリエットやレナードが残っているかと身構える。ただその声から敵意は感じられなかった。女性の声? いやまだ幼さが残るものだった。先ほどまでは誰もいなかったはずだが、気付かなかっただけだろうか? 慌てて目を開ける。容姿は未だ十歳前後程度? 暗がりから顔はよく見えない。ただ、その赤い瞳だけは暗闇の中でも爛々と輝いていた。
「聞こえているのだろう? なぜ生きている?」
もう一度同じ問いを受ける。私は自分でも不思議ながらに、この得体の知れない相手へ今までに何があったか、そして私だけが生き延びられた理由を素直に話すことにした。彼女にはそうさせる何か特別が力があった。
全てを話し終えた後、相手は少しの間考え込んでいた。ふと気がついたら雨は止んでいて、雲から月が顔を出している。私は相手が何かを話し出すのをただ待っていた。
そして彼女はようやく口を開く。
「――貴様は、その目的のために全てを捧げられるか?」
相手の質問の意図は計りかねた。ただ回答は決まっていた。
「もちろん。私は、私の復讐の為にはどんなことでもする。どんな犠牲も払う。そう決めたんだ」
相手はその言葉にゆっくりと頷き、空に浮かぶ三日月と同じ形の笑みを浮かべる。
「良い答えだ。――その望み、このリム=グネフェネが叶えてやる」
――私は運命なんてものを信じてはいない。しかしそんなものがあるのであれば、この出会いは運命だったのだろう。彼女、リムさんとの出会いにより、私の物語はようやく幕を開ける。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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