【1-4-2】
「……化け形族の集落の襲撃、ですか?」
「そ。だからちょっと抜けるわ。すぐに戻るけど何かあったらレオやっといてね」
『はぁ……』と生返事を返した。この連絡を受けたのは彼女がその里を襲撃する日の昼ごろだっただろうか。
「それは構いませんが、しかし何故また?」
「さぁ? まあでもあそこって前から潰そうとはしてたじゃない? だからいよいよ本腰になったとかなんじゃない?」
『知らねーけどー』なんて言いながら、どうやって持ってきたのか執務室でパフェを美味しくもなさそうに食べているガブリエット殿は、我らがラフェシアにおける最高戦力の一角でありミーム様からの信頼は随一だ。その彼女が送り込まれるのだから殊更に作戦の重要性は窺い知れた。
「いずれにせよご武運を」
彼女に向けて祈りを捧げる。ただ私などが祈らなくとも、彼女とレナード殿の二人であれば下手を踏むことはないだろう。それに『あーくそめんちーなー』なんて言っている彼女ではあるが、こと敵対したものに対しての冷酷さは私をしても背筋が冷えるものがあった。それこそ相手方が気の毒になるほどに。今回もまた殲滅の限りを尽くすのだろうと、そう考えていた。
――だからこそあのような姿での帰還は、全く想像だにしていなかった。
ラフェシアは人族を中心とした大国だ。過去幾つかの国々に分かれていた人族はラフェシアの建国により、歴史上初めて統一された。その時の立役者がガブリエット殿、そしてミーム様である。彼女達の母体は山脈麓の辺境国であったシェスカだ。シェスカは突如各国へ宣戦布告を行いそのままに近隣国を力で飲み込んでいった。そして全ての人族の国をその支配下においた後、ラフェシアに名前を変え建国を宣言したのである。
私の母国も彼女らに下った。その決断を推進したのはほかならぬ私だ。今でも思い出すことがあるが、当時のシェスカの異常性は明らかに常軌を逸していた。私は、我が国ですらも彼女たちを敵にしてただでは済むまいと踏んだのだ。父が、祖父が、先祖が守ってきた国と家族である国民を明け渡すということに抵抗が無かったわけではない。
ただそれでも彼女達を敵に回す事の恐怖が上回った。それに人族が一つになることは平和な未来の礎に繋がるはずと信じた。当初反対するものも多かったが、抵抗した国々の惨状を見てからは反対するものもいなくなった。
建国の日は国をあげての祝祭を行われた。人々は新たな門出に浮かれていた。これから来るであろう幸せな日々を誰しもが祝っていた。私もその一人だった。
――しかし、これは新たな戦火の始まりでもあった。
「亜族を滅ぼします。今すぐマグノリアへ進軍なさい」
建国して数日、幹部を集めての場でその宣言がなされた。同族同士の争いが終わりようやく血が流れなくなると思った矢先の宣言に、動揺するものは少なく無かった。ただミーム様に表立って逆らえるものなどいるはずもなく、みな彼女の命に従った。この日を境にラフェシアは軍事国家としての色を強めていった。
戦争が続く事に反対する国民も多いかと思ったのだが、想像に反しその数は少なかった。そもそもが人族の中には亜族に対して恨みを持つものが少なくはない。諍い自体は確かに常日頃から起きており、大規模なものでは一つの村が滅ぼされたという話まである。今までは各国が個別に小競り合いを起していたが今は状況は違う。人族が一つに統一された今、確かに戦争を起こせば亜族を飲み込むことは夢ではなかった。
しかもそれを後押ししているのが他ならぬミーム様だ。彼女は文字通りに人族における神そのものの存在だ。その声を受けて人族の熱気は加速していた。男は当然ながら、女子供ですら、戦争に送ってくれるよう懇願してきた。国民皆が妄信的に戦いをもとめていた。戦争に行かないものは悪かのように扱われた。
――私は、この国が正しい方向に進んでいるのか分からなくなっていた。
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