【1-4-1】 神意
その連絡を受けてからラフェシアは蜂の巣を突いたようだった。あのガブリエット殿が重傷を負って帰還されたのだ。しかも宰相であるレナード殿は戦死だ。まるで冗談のようだったが、その姿を見ては信じざるを得なかった。
「レオ!! ふざっけんなよ!? 魔法遅いんじゃ、ゴボッ」
声と共に大量の血が吐き出される。大きな外傷は見当たらなかったが、実際にその様子から重症であると受け入れる他無かった。
「ガブリエット殿! どうされたのですか?! 何があってそんな傷を!?」
ガブリエット殿もレナード殿も私よりも数段熟達した方々だ。戦場でもそう簡単に打ち取られることは想像できなかった。今回化け形の隠れ里へ行くとは聞いていたが、まさか片方は這々の体、片方は討ち取られるなど露にも考えられなかったのだ。
「レオ!! どうなってんの!?」
「治癒魔法を扱える者たちを今呼んでおります! しかし本当に、どうされたのですか」
「……やばいやつがいたのよ。もう死んだと思うけど」
あのガブリエット殿にこうまで言わしめる程とは、ラフェシアはともかく、マグノリアを考慮しても少ないだろう。それがあんな辺境で暮らしている種族にいるとは……
「……そうですか。レナード殿はおって葬送の義を執り行います。理由は公には出来ないため、病死ということにしますが」
しかしガブリエット殿が無事でよかった。二人とも戦死となってはラフェシアの士気に大いに影響がでる。無論レナード殿だけでもそうだが、ガブリエット殿は我々の旗印でもあり戦力の要でもある。この方を失う訳にはいかなかった。
「ガブリエット殿、完全に回復するまでは前線への復帰はお控えください。それにレナード殿がいない今、マグノリアへの対応は再度検討する必要があります。一度態勢を整え、然るべき時期を――「――ふざけてんじゃないわよ?」
喋っていた私の口をガブリエット殿が掴む。彼女は激昂しているのか顔筋に浮き出た血管が見えた。
「今までどんだけお膳立てしてここまで来たと思ってんのよ? ようやくカスどもを仕留められるチャンスなのに、この機会を逃してどーすんの?」
負傷しているにも関わらず振り解くことが出来ない。それ程までに私と彼女には確固たる壁があるのだ。その壁は私がどれだけ血の滲むような修練をしても縮まる事のないものだった。
「しかし、この状態でぶつかっても相手の思う壺です! せっかく今は我々が優位であるのですから、焦らずに状況を見ても!」
「そんなの、……あの方が許すわけないでしょ!?」
ガブリエット殿が私の胸倉を掴み主張してくる。彼女の言い分は分からないでもなかった。確かにあのお方は、そんな陳情を許してはくれないだろう。
世界に六柱しか存在しない太古の神々。その一柱を担う我らが人族の神。全てを慈しみ、虐げる創造と破壊の化身。ミーム=ラフェシア様には。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――
評価・ブックマーク・ご感想という形で、どうかあなたの想いをお残しください。続きを書く励みになります。
(……でないと、力尽きるかもしれません)
※評価は星マーク、ブクマはお気に入りからお願いします。




