【1-3-4】
目を開けた先には、俺を庇うようにリムが立っていてガブリエットへ剣を向けている。そのガブリエットは一旦距離を取りこちらの様子を伺っているようだった。
「――ねぇ、何してるの?」
「うーわー、レナードのやつしくじったなぁ? 使えねーやつ」
彼女は苛立たしそうにチッと舌打ちをした。
「ねぇ。後からワラワラ出てこられると困るから、あと何人いるか教えてくれない? あ、ハッタリかけても無駄よ?
どーせ終わるまでは帰れないんだから」
「……私以外は全員死んだわ」
「そう。じゃああなた達二人殺せばお終いね」
ヒラヒラと手を振りこちらへ向かってくる。そしてまた気付いた時には俺たちの目の前に入り込んでいた。
『おつかれー』と言いながら、剣をリムの胸に突き刺そうとする。だがリムはその剣をいなし反撃を仕掛けた。
「うえ!? ウソ!?」
ガブリエットは慌てつつもその攻撃を受けている。その間にもリムは連続で剣を振るっていた。
「アンタ、な、んで反応できてんのよ! 普通私の攻撃受けるなんて無理なんだけど!?」
二人の剣戟が響く。ガブリエットはまだ体勢が整っていないからか傍目にはリムが押しているように見えた。切る。払う。突く。受ける。また切る。それでも決定打には至らない。剣の技術は伯仲していた。
「ここの人たちって対人戦は慣れてないはずなのに、アンタ何者?」
「別に貴方に関係ないでしょ? それに貴方こそ何が目的でここに来たの?」
「それこそ関係な、くはないかー。里滅ぼされてるんだもんね」
二人は一旦距離を取っていた。話しながらも間合いを取り合い、攻撃のタイミングを窺っている。
「私たちはラフェシアから来たの。ある方からの命令でこの里を滅ぼしに来た。来る前はなんでそんなに気にされてるのか分からなかったけども、来てみてよくわかったよ。私達が手こずるんだもの。生かしておいたらきっと邪魔になる」
ラフェシア? 確か、人族の国だっただろうか? その国がなぜわざわざこんな辺境の隠れ里に?
「今までだって、ガーゴイルを何回か送り込んだり、小隊を送り込んだりしたのに失敗に終わったって聞いてる。もしかしてアンタも関与してるんじゃないー?」
……そんな話は初めて聞いた。まさか、俺たちはリムや里の人々によって秘密裏に守られていたのだろうか? それであれば彼女がこのような戦いに慣れていることも納得ができる。
「……さあね」
「肯定と受け取っちゃうよー? まあでもとりあえずあなたは殺しておいた方がいいわ。だから、とっとと死んで?」
再度二人が斬り合う。ただ自力差ゆえか徐々にリムが押され始めていた。
「ほらほら、終わっちゃうよー?」
ガブリエットが剣を振り上げリムがそれを受ける。彼女は剣を受けつつも体勢を崩し、後ろへと後退した。
「まあでもよくやった方じゃんー? ラフェシアでもそこまでやる人中々いないよ?」
ゆっくりとリムへと近づく。リムは剣を構えてはいるものの消耗しているのか呼吸が荒くなっていた。
「やっぱり、剣だけだと厳しい、かな」
その言葉と同時に、彼女は手のひらをガブリエットへ向けた。ガブリエットは警戒しつつも歩みを止めない。
「なにそれー? 待てってこと? 残念ながら休憩は認められませーん」
「……別に、そんなつもりはないわよ」
そして手のひらをゆっくりと閉じる。――いや、閉じようとした。
「――ッ!?」
――瞬間、ガブリエットが飛び退く。
「なによそれ!? 魔素も感じなかったのに!」
「ちぇー……。もうちょっと油断しててくれたらよかったのに……」
『でも、多少削れたかな?』とのリムの言葉と同時に、ガブリエットは咳き込みながらに血を吐き出した。
「ゴホッゴボッ、ありえない。最悪。こんな所で怪我するなんて、信じられない。それにアンタやっぱ、やばい。本気で、今殺しておかないと」
今までにない真剣な表情でリムへと向かっていく。リムは再度剣を翳し戦いに応じるも、限界が近いのか力無い様子だった。
やがてリムの剣は弾き飛ばされ、身体が切り付けられていく。このままでは時間の問題だ。リムが、殺されてしまう。
俺は震える足を押さえ立ち上がり、二人へと向かっていく。――取れる選択肢は一つしかなかった。ワンパターンではあるものの、もう一度自分を身代わりにしてリムに攻撃のチャンスを作ってやれば、彼女だけでもこの場を切り抜けられかもしれない。いやリムのあの攻撃なら出来るはずだ。少しの間でも時間を作ってやれば。
俺は崩れ落ちそうな身体そのままに、彼女達の斬り合いの中に身体を投じた。
「スーニャッ!?」
ガブリエットの剣が俺に近づく。今度こそと俺は再度ガブリエットを捕らえる態勢を取る。
――しかし同時に、俺の目の前にリムが立ち塞がった。そして俺が受けるはずだった剣は彼女を切り裂いた。
「リムッ!?」
リムの身体から血が溢れでる。正面から切り裂かれた傷口は素人目からも深く、致命傷だった。俺はそれでもどうにかしなければと、ただただその傷口を手で押さえていた。
「あーこんな幕切れかぁ……。でもありがちかな?」
ガブリエットが今度は俺に剣を突き刺してくる。俺はリムの血を抑える事が優先で避けることもしなかった。突き刺さった剣が引き抜かれ、ゴホッという咳ともに自分の血が流れ出る。ただそれすら今は他人事のように思えた。
「よし、これで二人とも致命傷かなー? でも一応首を落としておいた方がいいか」
血がついた剣を振り、もう一度振り翳している。今度こそ俺たちを殺す為に。
「……スーニャ大丈夫だよ。お姉ちゃんが守るからね」
か細い声が聞こえる。その声を受けて慌ててリムを見る。彼女は手を突き出し、ガブリエットに向けていた。
「させるわけ、ないでしょッ!?」
ガブリエットはそれを見て、すぐさま剣をリムの右手に向けて振り下ろす。剣は彼女の手を切り落とし、その腕からは噴水のような血が溢れた。
――ただ、地面に落ちた右手は固く、握られていた。
「ーーガボッ、ゴボっ、くそくそくそ。やられた! くそが! この私がこんなところで!!」
ガブリエットの口からさっきよりも大量の血が溢れている。彼女の最後の攻撃は確かに届いていたのだ。
「やばいやばいやばい!! 本気で死んじゃう!!」
その言葉と同時に彼女の手元が淡く輝き、足元に魔法陣が展開する。まさか攻撃してくるつもりなのかと思ったが、そういうわけではないらしい。
「あ、レオ! 聞こえる!? 今すぐ私を戻して! そう今すぐ! ああ?! レナード!? 死んだわよ! 私もやばいの! とにかく今すぐ戻して!?」
手を耳に当てながら宙にむけて喋り始っている。初めて見るものであったが、魔法で誰かへ連絡を取っているようだ。
その直後彼女の周りに魔法陣が広がった。魔素の光がどんどんと強くなり、ガブリエットの姿が薄れていく。
「―― ちょっとアンタ達、もうどーせ死ぬと思うけども、ちゃんと死んどきなさいよ!?」
ガブリエットは最後の最後までそんな言葉を吐きながら、光と共に消えていった。俺たちは力なくその姿を見つめていた。
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