【1-3-3】
暫く走り続け、里の外れまできた。俺たちは荒くなった息と未だ状況が掴めていない頭を整えるため、一度立ち止まる事にする。念の為即座にも対応出来よう装備は整えつつだ。
「はぁはぁはぁ、アイツらなんだったんだろう?」
「わからない。でもホントにあの二人に皆やられちゃったのかな……」
「父さん……」
トーリは唇を噛み締めている。本音では助けに行きたいのだろう。ただその気持ちを無理やりに抑えていた。
「私のママとパパも本当に死んじゃったのかな……」
カーナも流石に限界そうだ。無理もない。むしろここまで保っていることが凄いのだ。
「……ナロウはああ言ってたけども、まだ生きている人もいると思う。一旦は逃げて遠征隊に合流しよう」
それは本心だった。ナロウやサーヤだって俺たちよりもよっぽど強い。その二人を含めた里の全員が倒されたなんてとても信じられなかった。……俺の両親だってきっと生きているはず、そう思いたかった。
――ただその希望は簡単に打ち砕かれる。
「ざーんねん。せっかく犠牲になって逃したのにね。もう追いついちゃった。それに、誰も生きてないよ? 殲滅が命令だったから見逃すことないようみんな殺したし」
さっきの二人組のうちの一人、ガブリエットがすぐ側まで来ていた。そしてペラペラと言葉を吐いている。その理不尽さから沸々と怒りが湧きでてくる。
「……さっき残してきた人はどーした?」
「今私がここにいるんだから、それで分からない? あ、ちなみにレナードは遠征隊? とやらの方に向かったよ? だからそっちももう暫くしたら全滅するはずー」
『あのおじさん結構手強かったけどねー』なんてヘラヘラとしている。……平然と何を言っているんだこの女は?
「――ファイアボルトッ!!!」
咄嗟にカーナが魔法で攻撃をした。
「カーナ!?」
「今やらないと私たちもやられちゃうわよ!?」
その声に頭を叩かれたような感覚を覚える。確かにカーナの言う通りだ。それに相手はみんなの敵でもある。一矢報いたい気持ちは三人ともが持っていた。カーナの言葉に遅れながらトーリも矢を番え射る。俺も剣を手に相手へと突進した。
「うわ! 急に危ないなぁ。それに詠唱破棄できんの? 凄いじゃんー。弓も正確だったし将来有望だね〜」
ひらひらと余裕そうに俺たちの攻撃をかわす。クソッ!なんで当たんないんだよ!?
「コンビネーションもいいし、私たちの中の結構上の人でもやられちゃうんじゃない? ……でも圧倒的に対人経験が足りないかな?」
切り付けている最中『ほらここ隙ー』と腹を蹴られる。そこまで力は強くないはずなのに、俺は数メートルは吹き飛んだ。
「な、んで……」
「魔素で強化してんのさ。だから力も大人の男性以上だよー? まあでも君はいーや。先に厄介そうな子から殺してこ」
相手も剣を取り出してカーナへ向ける。カーナは一瞬怯えた顔を浮かべたが、すぐに立て直しいつでも魔法を放てるよう狙いをすましている。トーリは短剣に持ち替え相手の出方を伺っていた。
「……君たちホント有望だねー。前に似たような命のやり取りでもあったのかな? 普通この局面でそんな動けないよ?」
「……獣に殺されそうになったことならあるわよ」
「アッハハ。なにそれ? おっかしー。ど田舎あるあるー? ……つまんな」
カーナがガブリエットの注目を引いている間に考えを巡らす。この場では逃げるのが一番生存確率が高そうだけれど、中途半端ではすぐに追いつかれるだろう。せめて何か手傷を負わせ動けないようにしないと……。ただサラやナロウでも勝てなかった相手に俺たちが何か出来るはずもない。
――いや、何かを犠牲にさえすればあるいは。
よし、相手はまだカーナの方を見ている。賭けだが今思い浮かぶのは一つだけだった。俺は立ち上がると同時にガブリエットへ向かって全力で走る。相手は一瞬でこちらの動向に気づき姿勢を向けてきた。
「カーナ! 魔法準備!」
「え!?」
「いいから!」
相手の懐まで接近し滅茶苦茶に剣を振う。軌道が読めない動きのためにガブリエットは剣で防御しながらも厄介そうにしていた。
「なんのつもり? そんな事しても私は倒せないよ? それに、……君だけはホントつまらないね。他の2人と比べて才能のカケラも感じられない」
「うっせえなっ! 余計なお世話――「――もう死んで?」
口答えをするも次の瞬間にはその剣が俺の身体を貫いていた。痛いというよりも熱いという感覚が先行する。口から逆流した血が溢れ出す。トーリとカーナの悲鳴が聞こえる。それでも、こうなる事はオレの狙い通りだった。
「……やっと捕まえた」
刺さった剣から相手の身体を掴む。絶対に離さないよう力を込める。
「カーナ! 俺ごと燃やせ!」
「あちょっと!? そういう事!?」
『離しなさいー!』とガブリエットが暴れるも、火事場の馬鹿力とやらの発揮時だ。俺は更に力を込めた。
「でもスーニャが!?」
「いいから! そうしないと三人とも死んじゃうだろ!?」
泣きそうな表情を浮かべるカーナへ向けて怒鳴る。
「俺のことはいいから! 今じゃないとみんなの敵すら取れないぞ!? このまま終わっていいのかよ!? 早く打て!!」
「でもっ!!」
「いいから!! 早く!!!」
二人とも俺の覚悟が通じたのか、涙を堪えた表情のままに頷く。そしてカーナは持てる力を込めたフルパワーでの魔法を放つ。
「うゔぅ……。ああァァ!! ――顕現せよ!!ファイアボルトッッ!!!!」
彼女の言葉と同時に俺とガブリエットは凄まじい量の炎に包まれる。皮膚に熱さが伝わる。
――そうか。ここでお終いか。まあ俺にしては十分務めは果たしたんじゃないだろうか。これで多少なりとはガブリエットに手傷を負わせることが出来るだろうし、あとは無事に逃げ延びてくれるよう祈るだけと目を閉じる。
「――いや、折角だから喰らってあげてもよかったんだけどさ。やっぱ服燃えるからやめるわ。これ結構気に入ってんだよねー」
『はい、ブリザードシールドー』の言葉と共に俺たちは氷に包まれ、纏っていた炎は容易く掻き消された。呆気に取られる俺はガブリエットに再度蹴りとばされる。
「なかなか頑張ったし感動的だったけどねー? でもこれ以上生かしとくとまたなんかやるかもだし、そろそろ殺すね?」
その言葉と共にガブリエットの雰囲気が一変する。そして一瞬のうちに彼女はトーリの前に移動し、剣を振り翳していた。トーリはあまりの早さに声すら上げられないままにその身を切りつけられる。
「トーリ!!」
俺が叫んだ瞬間今度はガブリエットはカーナの目の前に移動していて、彼女のノドに剣が突き立てられようとしていた。
「スーニャ、たすけ――「――はいはいおつかれー」
「カーナ!!」
剣はカーナの肌を貫き、鮮血が噴水のように溢れる。彼女の苦しみに歪んだ表情に俺は思わず目を背けた。
ガブリエットは最後は俺だと、嫌味のようにゆっくりと歩き向かってくる。
「結局君が最後まで残っちゃったねー」
俺に向けて剣を振り上げる。もはや抵抗する気力も湧かず、俺は目を閉じその瞬間を待った。
しかし、数秒経っても俺の身体は傷つけられていなかった。既に剣が届くほどの時間は経ったはずなのに。目を開け前を見ると、見慣れた背中が目に映る。
「――私の弟になにしてるのかな?」
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