【1-3-2】
爆発音は里の辺りから聞こえた。俺たちは捕まえた獲物を近くの木陰に隠して急いで里へと向かった。
「あの音、なんだったんだろう……」
「何かが爆発したような音だったよな……。山鳴りとも違ったし……」
「……魔法の炸裂音に似ていた気がする。私は、あんな大きな音が出る魔法なんて見たことがないけど」
「魔法? ……魔法であんな音が鳴るのか?」
とても信じられなかったがこの中で一番魔法に長けているのはカーナだ。その彼女からの言葉であるため信ぴょう性は高かった。
「うん……。でももしそうだとしたらかなり大規模な魔法だよ。攻撃目的の魔法だったら、効果は相当な範囲になると思う」
「でもそれだったら、誰が何の目的で?」
「それは分からないけど……」
不安ばかりが増していく。嫌な予感を感じつつ、俺たちはさらに速度を上げる。とにかく何が起きたのかを確認する必要があった。
到着した里の姿は俺たちが知るそれとは全く変わっていた。里中が炎に包まれており、あたりには煙が立ち込めている。すでに崩落している建物も多かった。途中倒れている人を見つけ慌てて駆け寄るもすでに生き絶えている。人が焼ける匂いが鼻先をつき、思わず吐き気が押し寄せた。さながら地獄、だった。
それでも生存者を探す。家族や友達達の安否が気に掛かった。炎を避け自宅方面に向かう中、途中何人いや何十人にも会ったが一人も生きているものはいない。俺たちはその間一言も発しなかった。いや発せなかったというのが正しいのか、ただただ歩みを進めた。
そして幸運にも、トーリの家の近くでナロウに出会う事が出来た。あちこちが焦げつき傷を負っているようではあったがやっと生きている人に会えた。その事実だけでトーリとカーナは緊張の糸が切れ、へたり込んでしまった。
「トーリ! どこへ行ってたんだ!? ずっと探していたんだぞ。ああでも本当に無事でよかった。スーニャもカーナも本当に、よかった」
ナロウに泣きながらに抱きつかれる。このまま休んでしまいたかったがそういう訳にもいかない。まずなにがあったか聞かなければ。
「ナロウ何があったんだ? 他の人たちはどうなってる?」
「ああそうだ。すぐに逃げよう! 今はサーヤが食い止めてくれてるが長くは持たない!」
彼も動転しているのか脈絡がなく、状況が掴めなかった。
「ナロウ落ち着いて。サーヤは何を食い止めているんだ? それに他の人達は? もしまだ生きてるなら助けないと」
「――生きてる人はいない! 全員殺されたんだ! 俺たちは襲撃にあったんだよ!」
彼の発言に愕然とする。カーナが『そんな……』と言いながらに口を押さえる。ナロウはそのままに言葉を続けた。
「オレなんかがいても足手纏いでしかないと、サーヤはオレを逃がしてくれた。お前達を探すことや遠征隊への連絡を目的としてな。ただ実力差がありすぎる。今すぐ逃げないと!」
何もかも理解ができなかった。俺達は誰にも迷惑も何もかけていないはずで、襲撃を受ける理由など見当も付かない。沈黙していたトーリが不意に声を上げる。
「……父さん。母さんも亡くなったのか?」
「ああそうだ。残念ながら……」
「そうか……」
トーリは沈痛な面持ちをしたままに前を向いている。
「……トーリ、カーナ、行こう。まずは俺達が生き残らないと」
呆然としている二人に声をかける。休ませてやりたかったけれど、それよりもまずは生き延びてほしかった。
「カーナもごめんな。でもまずは逃げよう」
「……そうね。スーニャの言う通りね」
手を差し出しカーナを何とか立たせる。こんな状況で冷静になれるはずもないが、それでも今だけは耐えて貰うしかなかった。俺たちの様子を見ていたナロウが声をあげる。
「よし、じゃあすぐにいくぞ。まずは里を走り抜――「ー―あーこんなとこにまだいたんだ。あっぶねーあっぶねー。怒られちゃうところじゃん」
「ガブリエット殿が戯れていたせいでは?」
「あ? なにレナード? あたしのせいだって言いたいわけ?」
「端的にいえば」
「はー!? なに喧嘩売ってんの!? めっちゃ腹立つんですけど!?」
目の前に見慣れない格好をした二人組が現れた。一人はガブリエットと呼ばれていたが、女騎士だろうか? 長髪の黒髪を無造作に背中に伸ばし、端正な顔立ちをしながらも機嫌の悪そうな、高圧的な顔つきをしている。女騎士だと考えたのはその格好に似合わない無骨な剣を携えていたからだ。もう一人の男は黒いローブを羽織っていて顔はよく見えない。ただ声の感じから比較的若いことは伺えた。人族で言えば二、三十代くらいだろうか?
二人組が来たと分かった瞬間ナロウが俺たちを守るように前に立った。
「三人とも! 今すぐに逃げろ! こいつらに全員殺されたんだ!」
「でも父さん!」
「いいから! 早くいけ!」
ナロウの緊迫した様子を見て嘘ではないことを悟る。渋るトーリの手を取り俺たちは駆け出した。背からは金属がぶつかる甲高い音が響いていた。
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