【1-2-5】
俺が意識を回復させたのは思いの外すぐだったらしい。あの後すぐ里へ運ばれ処置がなされた。その後数時間程度で目を覚まし更には特に目立った怪我も見当たらず、俺はみんなに驚かれた。
『私の弟なんだから当然でしょ』なんてリムは言っていたらしいが、いや俺とアナタ血の繋がりはないじゃん、とは思いつつもツッコミはしなかった。ただ下手したら死ぬ人もいる程の怪我であるのに、すぐに目を覚ましピンピンしている辺り俺もまた異例ではあったらしい。
「スーニャァ〜、よがっだよ〜」
泣きながらカーナが抱きついてくる。随分と珍しい光景だ。こんなのいつ以来だっただろうか? ああ俺が前世の記憶を取り戻した時以来か? トーリはトーリで反省の意を表しており、……驚いたことに頭が丸刈りになっていた。
「え!? いや、トーリ、だよな?……頭どしたん?」
「……お前達を危険に合わせたからな。それに俺は今回ただただ不甲斐なかった。だから自分なりにその反省をこめてさ」
神妙な面持ちで説明をしているがその姿すらも笑えてしまう。吹き出している俺に対してトーリは怒るかとも思ったが案外冷静だった。
「いいんだ。笑われるだろうとも思ってたし。でもちょっとスッキリもしたよ。もっともっと精進しないとな……」
言葉を受けて更に笑いが止まらない。ずっと笑い続ける俺に流石のトーリも怒っていた。
顔を青くした両親を含めひとしきり面会が終わり、俺は外へ出た。すでに日は暮れていて祭りも佳境に入っている。今年は俺たちが捕らえた獲物に加えて、ミームが仕留めたボウの肉もあるために大盤振る舞いだ。惜しみなく肉を使用した料理がそこかしこに置かれている。俺も何か食べようと手を伸ばした。
「お! スーニャじゃねーか! もう大丈夫なのか?」
声をかけてきたのはナロウだった。酒が進んでいるのか赤ら顔で声も大きかった。『ここ座れ座れ』と言われ、断りきれず俺も横に座る。
「いや本当にスーニャがいてくれてよかったよ! お前でなけりゃ今頃カーナもトーリもいなかったかもしれねー。ホントに英雄だ!」
『スーニャに乾杯!』なんて言いながらナロウは酒を呷る。
「いやでもほら俺前衛だし、周り見るのは俺の役割りだったしさ」
「いーやそんなん関係ねー。だって周りに隠れてた俺たちだって分かんなかったんだぜ? 子供に分かるわきゃねーよな。それにあの状況でカーナを守ったんだ。立派に役目は果たしてる。あんなの大人にだってできる事じゃねーぞ!」
次から次へと酒を呷るナロウであったが、その言葉は素直に嬉しかった。あの危険を招いたのは俺であってこの怪我も自業自得だと考えているが、それでも多少なりとは救われる面もあった。
「ありがとなナロウ。アンタも立派な――「――あ!! スーニャお起きたの!??」
ナロウに一応お礼を言おうとしたんだが、喧しい声に遮られた。遮ったのは、里の子供の危機を救った英雄であるリムだ。今は軽装に着替えていて茶色の髪は片側にお団子に纏められていた。
「スーニャー!!!」
そのままに俺に抱きついてくる。……こらそのままにスンスンと匂いを嗅ぐのはやめろ。
「スーニャ大丈夫ー!? 痛みはどー? 苦しいところはー? あそこの椅子で休もうか? なんか食べたいものあれば持ってくるよー?」
弾丸のように捲し立てる姉をどーどーと抑える。それと、おいナロウこっそり逃げるんじゃない。
「……あ、ナロウもいたんだー? 少しは反省したのかなあ? ちゃーんとスーニャに謝罪とお礼はしたのかなあ?」
気付かれたナロウは先程までのテンションはどこへやら、滝のような汗をかき始めた。この格好トーリには見せられないな……。
「ももも、勿論だよなスーニャ?! バッチリ感謝させて貰ったものな!?」
ここはナロウの顔を立てることにしよう。
「ああ。ちゃんと言ってもらったよ。それにアレは俺が悪かったんだ。だからリムもそんな目くじらたてないで」
「いやでもぉ……」
なんて渋っているが、結果的にはリムが助けに入ったものの、そうでなければみんなどうなっていたかわからないのだ。改めて反省すべきではあるだろう。
「リム。本当にいいからさ、そろそろ時間も時間でしょ? 一緒に天灯やりいこーよ!」
この降誕祭は数時間に渡り開催されるが、決まって最後は天灯と呼ばれる小さな提灯に火をつけ、それを幾ばくかの間浮かべ過去と未来へ祈りを捧げるのだ。今年も開催を予定しており人数分の天灯が用意されていた。
「うーんスーニャがそういうならね。私もスーニャとお祭り楽しみたいし〜……」
ナロウからさっさと行ってくれという視線を感じつつ、俺はリムの手を引いて広場まで移動する。途中途中に見知った顔やらリムのファンやらに捕まりそれなりの時間が掛かってしまったけれど、そこにはすでにたくさんの人が集まっていた。
「うわぁ……綺麗!」
リムが思わず声をあげる。俺も俺で感嘆の声をあげていた。真っ暗な中に浮かぶ天灯はまるで星や月のように世界を彩っている。俺たちも受け取ったそれに火をつけ宙へと飛ばした。最初はユラユラと頼りなく、ただ途中からは軌道に乗り空へと舞っていく。あたりの暗闇を照らしているその姿はただただ美しく、自分達の未来を明るく照らしてくれているようだった。
「来年も再来年もずーっと一緒にこよーね」
リムが俺の手を握りながら囁いてくる。俺はその声に呼応するように手を握り返した。俺たちは二人でいつまでもこの光景を眺めていた。
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