【3-4-2】
そんな思いとは裏腹に戦争の準備は進んでいった。私も自分の中のささくれを押し殺しながらに準備を進める。
私は密かに周りの人々の想いを尋ねてみることにした。無論信頼できる人に限ってだ。この戦争を、そして亜族をどう思うのか、だ。
「……正直驚きました。レオ将軍がそのような事をおっしゃるなんて」
『でも信頼して話してくれた事は嬉しいです』というのは先の戦いでも共にしたミコ殿だ。
「私も、先の戦いでは亜族という存在を改めて見つめ直す場だったと思っています。……彼らがただの蛮族であるとは私も思えないです」
彼女の言葉を聞いて、自分の考えに近しいものがいたと少し安堵する。ただ異を唱えたのはリーファ殿だ。
「……戦争など無いのが理想です。しかし今や人族の亜族に対する憎しみは果てしないものになっている。それは亜族も同様でしょう。今更和解する、というのは……」
彼女が言う事も理解が出来た。確かに今やこの二種族には大きな隔たりがある。
ただ、過去もまた双方の諍いはあった。それでも共に過ごしたもの達がいた事も事実だ。それなら今もう出来ない、と言う事もはずだ。……という考え方は楽観的が過ぎるだろうか。
「……でも私は貴方の考えは否定しませんよ。人族も亜族もともに平和に暮らせるのなら、そんな素敵な未来考えたことすらありませんでした」
リーファ殿が笑みを浮かべながらに私に答える。『はーい! 私も私もです!』なんて言っているミコ殿を見て、私は思わず笑ってしまう。有難い言葉だった。
少なくとも同じ考えのものがいる事が分かった。それだけでも心強かった。
「恐らく貴方の考え方は、皆が少なからず持っているものだと思います。私達がそうだったようにです。なので風向き次第では同調するものもいるでしょう。ただ……」
彼女が言いづらそうにしているが、言いたい事は大方予想は出来た。
「……分かっている。そうでないものもいる、と言う事だろう?」
「……ええ。本心から亜族を憎んでいるものもいます。その方達をどうするか、ですね」
彼女の言う事は最もだ。確かにその通りで頭から否定するものもいるはずだ。
「最近では、ルドリアはその代表とも言えるでしょう。特にギルバート殿は人が変わられたようだとか」
父君のギルゴーシュ殿を喪ってから、国を継いだギルバート殿だが、その噂に聞き及んでいる。亜族の捕虜達へ随分と非道な真似をしているらしく、制止する声が絶えないようだ。
今回戦争が始まる旨を聞いた時にも嬉々とした反応をしたという。確かに彼は私の考えに賛同してくれることはないだろう。
「あの〜、それより何よりなんですが……」
ミコ殿がおずおずと話しだす。はてどうしたのだろうか?
「誰よりも、ミーム様とガブリエット将軍が許さないのでは……?」
「ゔっ。それは……」
目を背けていた事実を突きつけられる。確かに、あのお二人に話が通じるとはとてもじゃないが思えなかった。
「でもミーム様はともかくとして、ガブリエット将軍って何をお考えなんでしょう?」
ミコ殿の言う通りで、ガブリエット殿の事は私たちも実は詳しく知らない。ミーム様の一番の腹心、シェスカの出自、圧倒的な武力。私達が知っているのはそれくらいだ。
「……一度ガブリエット殿に話を聞いてみようか」
「「えっ!!」」
「なんだその反応は……?」
「いやだって……」
『あのガブリエット将軍ですよ?』と言うのはミコ殿だ。彼女の反応通りにガブリエット殿を苦手とするものは多い。まぁ失礼な話し、傍若無人を体現したような方ではあるとは思う。
ただ私は、その素行はともかくとして、少なくとも彼女の武芸は尊敬出来るものと考えていた。
「……でも、ガブリエット将軍もレオ将軍にはそこまで態度も厳しくはないですからね。私達では話は聞けなくとも、貴方になら彼女も話すかもしれません」
『え〜そうですかね〜?』なんて言いながらにミコ殿は不満気な表情を浮かべていた。しかしひとまず話を聞いてみる事にしよう。今のままでは何も動きようもないのだから。
「ありがとう二人とも。今から一度ガブリエット殿に話を聞いてみるよ」
「……え今から? それに本当に行くんですか?」
「まぁレオ将軍なら大丈夫ですよ。良い話が聞けるといいですね」
両極端な反応を見せた彼女らだが、善は急げとも言う。私は挨拶をしその場を後にした。
早速ガブリエット殿を探したけれども、城内にはいないようだった。彼女は事務仕事などの基本的な仕事は全て副官に任せている。今も彼女自身はどこか別の場所にいるようだった。
「ひーん、全然回らないですよぉ〜……」
なんて言いながらに目を回しているガブリエット殿の副官のカレンを見ると流石に哀れに思う。
「ガブリエット様ですか〜? むしろ見つけたら直ぐに執務室に戻るよう伝えて貰えませんか〜……」
彼女もまたガブリエット殿がどこにいるのかは知らないようだった。礼を言いつつその場を去る。……ガブリエット殿を見つけたら戻るように伝えておこう。
「――あーそれで何なわけ?」
彼女がいたのは城下町にある甘味処だった。途中途中に話を聞いてようやくここに辿り着いた。このお店は甘味処としては珍しくそれぞれの卓が個室のような形になっていて、ここであれば話しても問題はなさそうだった。
「お忙しいレオ将軍がー、こんなところで遊んでていいんですかー?」
ケケケと笑いながら話している姿は、意地の悪さはともかくとして、傍目からは年相応の女性にしか見えない。それも今は無骨な鎧では無く私服のためにより一層だ。
「それはガブリエット殿も同じでしょうに」
「まあねー。まあそんな所に立っててもなんだし、座ればー?」
彼女に勧められて席に座る。話を切り出そうと思ったのだが彼女は目の前の甘味を次々に平らげていく。その勢いに圧倒され、なかなか話しかけるタイミングが見つからなかった。
そうしているうちに、彼女もひと段落したのか、持っていたスプーンをテーブルへ置く。ケプという可愛らしさゲップとともにこちらを目を向けた。
「……で? 何しにきたわけ?」
「……ええ。実はガブリエット殿が戦っておられる理由などお聞きしたくて」
ようやく話が始められる。最初から本題を始める訳にはいかないだろう。ただ、こちらも過去から聞いてみたい話ではあった。彼女は何故こんな苛烈とも言えるほどの戦いを続けているのか。
「はぁ? 何それ?」
『そんなん聞きにきたの?』と至極つまらなそうな顔をしている。
「いえ、昔からガブリエット殿とはゆっくり話す機会もなかったでしょう? 貴方が掲げる信念や大義などについて一度お聞きしてみたかったんです」
「え〜、こんな席で? それに私そういうの嫌いなんだけど?」
まあ彼女が言う事ももっともだ。ただこの場を逃したら中々捕まらないように思えた。私は彼女をじっと見る。ガブリエット殿は観念したかのようにため息を吐いた。
「じゃまー、代わりにここの代金レオ持ちね?」
それくらいならと勿論了承する。そして、私は彼女が戦う理由を初めて聞く事になる。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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