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転生した俺は、”私”へもう一度生まれ変わる。為すべき事を為すが為に。――異世界転生したら、世界の敵になりました。  作者: 篠原 凛翔
【第3部】白日夢

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【3-4-1】意志

 花束が墓碑の前へ置かれる。周りに囲うもの達は皆同じく黒い衣装に身を包んでいて、涙を溢しているものもいれば、覚悟を決めたもの怯えた表情を浮かべているもの、様々だった。


「ジョー、サーシャ、ナタリア、ゲン、ブリオ、アレン、フレア、レン、スティーブ、ケンウッド、ミストリア、ギルゴーシュ、カイリ――――」


 ミーム様が墓碑に刻まれている名前を読み上げていく。ここに眠るのは先の戦争で亡くなったもの達だ。自分の見知ったものの名前が上がる時、皆が身体を震わせていた。


 私もそれは同様でとても無感情ではいられなかった。


 彼女は名前を読み続けていく。果てしないほどの犠牲者達。いつまで続くのかとすら思えるその長さに、改めて失った同胞の多さを実感させられる。


 それでも遂には読み上げが終わる。私達は目の前にいるミーム様へと視線を向ける。彼女はこちら側へと振り返り、口を開いた。


「――この戦争は人族のためのもの。人族の犠牲がこれ以上増えないため、この先未来永劫の人族の平和のために」


 彼女はここで一度息を吸う。


「――亜族を滅ぼしなさい」


 彼女の言葉に鼓舞され人々は声をあげる。人族の想いが詰まった歓声。その声は犠牲者の名前を読み上げていた時間に匹敵するほどに、長く続いた。


「いやあ私なんだか涙が止まらなくなってしまって」


 目の前で目元を擦っているのはミコ殿だ。あの後私達はそれぞれの仕事へと戻った。再度戦争を起こすというのだから、やらなければならない事が山積みだ。兵達や兵糧の管理、戦略の立案。休んでいる時間などとてもじゃないが無かった。


「この戦争を終わらせて絶対に人族の将来を築きましょうね!」


 確かに今であれば人族の勝利はそう難しいものではない。相手方は今目立った将もおらず、何よりも混乱しているはず。無理を推して攻め込むにも悪くないタイミングではある。


「……レオ将軍どうしました?」


 彼女が怪訝そうな表情を浮かべている。鼻息荒くしていた彼女とは裏腹に私の心は冷めていた。なんでもないと、私はその場は濁しつつ彼女とは別れる。


 カイリがいなくなった事で私が管理したければならない部分が増えた。彼女がこなしていた業務を改めて知って、私はどれだけ助けられていたのか、そしてこれだけの量を一人でこなしていたのかと驚く。


 別の子達が私の副官についてくれたものの突然の切り替わりで引き継ぎなどもない。業務がままならないのは致し方ないことだろう。


 私は自室にこもり業務をひたすらにこなす。目が回るような忙しさではあったが時間も限られている。今は一つずつ目の前のものから消化していくしかなかった。


「……あのレオ将軍」


 ふと今副官を任せているアンジュという子に声を掛けられる。私は目の前の書類から顔を上げて彼女を見る。隣には先の戦から戻る際に会ったマーチがいた。


「おお。マーチじゃないか? どうした?」

「……お忙しいところすみません。お願いがありまして」


 お願いとは一体なんだろうか。彼女の思い詰めた表情に何事かと佇まいを直す。少し言い淀んでいるように思えたので、こちらから話を振ってやる。


「……どうした? なんでも言ってくれ。また戦争になってしまったが、これは皆一人ひとりがあってこそだ。意見は是非言ってほしい。極力便宜は図る。もしガレリオへ戻りたいというのなら、それは無論問題ない。気にする必要などないんだぞ?」


 一人でも多くの兵が必要とはいえ、無理をさせてまで付き合わせるつもりはない。むしろ私が伝えたような想いはあって然るべきものだ。極力彼女が言葉を発しやすいよう柔らかな雰囲気を作るよう心掛ける。


 ただ、私のその想いとは正反対の言葉を受ける事になる。


「……レオ様、私達も戦わせてください」

「……え?」


 想定外の言葉に私は反応することができなかった。ただ彼女は畳み掛けるように話を続ける。


「皆が犠牲になっているのに、私達だけ後方にいる事など出来ません。どうかお側に置かせてください」


『これは皆の嘆願書です』と紙の束を渡される。その紙には今マーチが言ったように前線へと移動させてほしいとの旨が書かれていて、志望者達の名前や年齢、性別、戸籍といった情報に加えて血印までが押されていた。


 見ると男性だけではない。老人、子供、女性などの、むしろ通常では戦場に出さない類の人々が多く連ねていた。


「皆、自分たちだけが安全な場所にいるなど耐えられないのです。この身を人族の未来の為――」


 彼女は思い詰めた表情で話し続けている。ただ、私にはその話は全く入ってはこなかった。


「――レオ様、ですから私達はたとえ死ぬのも嫌いません」

「……めてくれ」


 私の内からポツリと言葉が溢れる。その声はあまりに小さく彼女の耳には入らなかったようで、彼女はまだ話し続けている。


「私の命一つで皆の長い平和の礎になれるならそれくらいなんて事はないことです」


 そんな事はない。死んでいいものなどこの世にあるはずなどない。だからそんな、自分から死ににいくような真似なんてする必要はないんだ。


「ですからどうか私達も――「――やめてくれっ!!」


 私の声に、マーチと隣にいたアンジュもまた驚いた顔を浮かべていた。私も自分の声にハッと顔をあげる。思った以上に大きな声が出ていた。


「……すまない。少しだけ待ってくれ」


 私は自分の顔を手で覆いつつ、深く息を吐く。少しでも感情を落ち着かせなければ。マーチも私の言葉を聞き待ってくれていた。


「……ありがとう。驚かせてしまってすまなかったな」


 私は彼女へと頭を下げる。


「……いえ。こちらこそすみませんでした」


 返すように頭を下げようとした彼女を、手をむけて制する。


「今のはこちらが悪かったのだ。マーチが頭を下げる必要などない。ただな、貴方の考えはよくわかったがそれを受け入れるわけにはいかんな」

「……それは何故でしょうか?」

「なぜなら、貴方達は武芸の心得がないだろう? そんなもの達を連れて行くのは私たちにとっても危険が伴う」

「いえでも、盾でもなんでもよいのです。私達はそれでも……」

「気持ちは有り難く頂くよ。しかしそんな仲間の姿を見て平然でいられるものなどいやしない。むしろその姿を見て、恐怖に支配されるものも現れるはずだ。それでは本末転倒だろう?」

「でも……」


 彼女はそれでもと渋っている。ただ私が言っていることも理解できるのだろう。強く反論はしてこなかった。


「それにだ、後方での働きもまた我々にとっては重要だ。それは貴方もよく分かってくれているはずだ。だから、頼む。貴方にはまた後方で我々を助けてほしいんだ」


 その後も私は彼女へ言葉を続け、やがてマーチも納得してくれた。志願者達についても彼女から話をしてくれることとなったため、実際戦場に送ることなくすみそうだ。


 彼女が部屋から出ていった事を確認し、私は大きく息を吐く。アンジュがこれまた驚いた顔を浮かべていたが、知るものか。


 ここに来て私は自分の気持ちを改めて理解した。スーニャにあんな啖呵を切ったのに、私はもう誰にも死んでほしくないのだ。人族だけでなく、亜族も含んで。


 皆に言わせればこんな考えあり得ないものだろう。ただ、私は自分が間違っているとはとても思えなかった。


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。

この物語が、ほんの少しでも心に残ったなら――

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