表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

人を喰う桜

作者: 小雨川蛙

 

 幼い日。

 桜色の少女に出会った事がある。


「あなたは?」


 思わず問う。

 彼女に見惚れながら。

 彼女は風に揺られ首を振るばかりだった。


 その姿に恋をした。

 返事などいらなかった。

 ――ただ、見つめていたかった。

 それだけだった。


「また会いに来ても良いですか」


 問いに彼女は答えなかった。

 一度たりとも。


 だけど、確かに感じた。


『気の済むまで来なさい』


 そんな返事を――。



 ***



「君は綺麗だ」


 見上げた桜の木は記憶から色褪せたりしない。


 そして、かつてと同じように僕の声掛けに返したりしない。

 風に揺られて微かな返事を――感じさせるだけだ。


「見てくれよ。僕はもうすっかりお爺さんだ」


 白髪さえも全て抜け落ちた。

 まるで枯れ木のように。


「君に恋して幸せだったよ」


 ――あと、何度この場所に来られるだろうか。

 そう思いながら僕は踵を返す。


 この桜の木が『人を喰う桜』などと呼ばれていると知ったのは随分と前のことだ。

 その言葉の意味を若い僕は考えたこともなかった。


 しかし、今なら分かる。


「確かに君に喰われたよ、僕は――」


 何せ、人生の全てを君に奪われたのだから。



 春のそよ風によろめきながら、僕は木漏れ日の中をのんびりと歩き続けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ