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僕と正義と正義

作者: 刹那神威

突然だが僕は正義だ。僕こそが、僕だけが、とは言わないが僕は正義で、僕が正義だ。ヒーローとは言わない。僕は他の人を救う力など無い。それに、特に知らない人を救いたいともあまり思わない。

世間では僕と同じ様な人がいっぱいいる。

己が正義だと主張し、争い合う。かく言う僕も己の正義を主張して何度かぶつかり合ったこともある。その度に勝ってきたのは言わなくても分かるだろう。

色々な正義を主張している人を見てきた。

勝者だけが正義だ、とか。

自分の心を信じれる人が正義だ、とか。

他者の全てを許せる人が正義だ、とか。

でも、僕はどれも違うと小さい頃から思い、主張し、それを剣として盾として戦ってきた。

家族はそんな僕を良く心配してくれた。

あなた本当に大丈夫?だとか言ったり。

正義をぶつけ合って帰った日には、殴り合うような喧嘩もしていないのにお母さんに僕の正義はまた勝ったんだ!って自慢した時も

病院に行く?本当に大丈夫なの?だとか言ったり。

その夜にはお父さんにあの子最近変なの…病院に連れて行ったほうが良いのかしら…

と相談していたりもした。

弟も僕の正義を賭けた戦いの最初から最後までを聞いて、かっこいい!って言ってくれた

なんて嬉しいんだろう!僕の正義が家族に認められる事がこんなにも嬉しいなんて!

僕は自分の正義なりに色々頑張ってきた。

勉強を頑張った。そして、受験をしてとても良い学校に行った。

運動を頑張った。かけっこはクラスで普通よりちょっぴり速いくらいだったけど、自分の正義を胸に、いっぱい、いっぱい練習してリレーの選手にも選ばれた。

家事を頑張った。料理で火とか包丁とか使うのをお母さんに止められたけど、お母さんにいっぱい頼み込んで少しのお手伝いをさせてもらった。お皿洗いを手伝った。3枚、お皿を割っちゃったけど、完璧に出来た時はちゃんと褒めてもらえた。

整理整頓を頑張った。きれいな心はきれいな場所から来る。そう信じて部屋はいつもきれいに、机の中にはもらった教科書を整理して入れた。弟にも、凄いと言ってもらえた。


でも、昨日僕は、僕の正義は負けてしまった。中学校に入学して早3カ月。いつも通り学校で勉強して、帰宅部の僕が帰ろうとした時、クラスメイトの大柄な山本くんという男の子が横に2人の男の子を連れて僕の方にやってきて校舎裏に連れて行った。

そして、こう言ったんだ。


「てめぇ最近調子に乗ってンだろ、おい。」


僕には心当たりが無い。自分の正義を貫き通そうと勉強を、運動を、学級活動を頑張っていただけだ。

だから当然無言でいると、


「あぁ?だんまりがてめぇ。いいか、てめぇの様ないかにも僕頑張って偉いって思ってるようなやつは気持ちわりぃんだよ。」


「僕が?僕が自分を頑張って偉いと思っていると?」


「口答えすんじゃねぇ!」


殴られる。痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!

なんで?さっき君は、


「だんまりか?って責めたじゃないか!」


「勝手に喋んじゃねぇ!」


また殴られる。痛い、痛い、痛い、痛い!

駄目だ、やり返しちゃ。駄目だ、殴り返したら。駄目だ、駄目だ…。

やり返すことは間違いだ!僕は間違えない!


「てめぇもう痛い思いしたくなかったら調子に乗ンなよ、てめぇの様なゴミカスは隅っこでウジウジしてりゃいいんだ。」


そんな事、出来る訳が無いだろう!僕は、僕が、正義なんだぞ!

でも、僕の口から出た言葉は…


「は、はい…」


その言葉を口にした途端愕然とした。そして自分に失望した。情けない、情けない!

僕は正義じゃないのか!?

そうして涙を堪えながら家へと帰った。


────────────────────

僕はこれからどうすれば良いんだろう?正義は必ず勝つものじゃないの?いや、僕だって正義は毎回勝つものだと思っているわけじゃない。でも、僕の正義が負けるとしたら、他の人の正義に負けるのだと思ってた。でも、違った。あれは、山本くんは悪だ。

僕は間違ったことを何もしていない。悪いのは全部全部あいつだ。だから、僕が彼を、悪を討ち滅ぼすんだ!よし、こうなったらあいつをこらしめる作戦を考えよう!

あいつを倒す作戦に必要なのはやっぱり知ること。これからあいつを観察して弱点を見つけてやる!


「お兄ちゃん、ご飯だよ」


弟がノックして入ってきた。凄い優しいとてもいい弟だ。


「ありがとー。まだお風呂入ってないしご飯食べたら直ぐに入ろうかな。」


「ご飯食べてすぐお風呂入るのはあんまり体に良くないらしいよ?」


「うーん。しょうがない。少し勉強でも挟むか。」


「夜一緒にゲームしよ!」


「うん。いいよ。」


「やったー!じゃあ早くリビング来てね。」


可愛い弟だ。僕を尊敬してくれているこの弟のためにも僕は正義じゃなくちゃならない。常に、正義に。だから、弟を悲しませるなんていう間違ったことをしてはならないんだ。

絶対に、あの様な悪は懲らしめてやる!


そのままご飯を食べて、勉強をスタート。受験でそこそこいい学校に行ったから、結構難しい問題ばかりだ。でも、ふと思ってしまう。僕は悪と出会わないために受験して良い学校に行ったのに、何でああいう悪がいるんだろう。僕が最初に考えなくちゃいけないのはもしかして山本くんの弱点じゃなくて何で悪が生まれるのか、かもしれない。よし、早速調べてみよう。

えーと、チャットGPTって奴を先生は使うといいって言ったてたな…

じゃあ…『なんでこの世には悪がいるの?』


えっと、答えは…

────────────────────

ChatGPT


あなた:

なんでこの世には悪がいるの?

ChatGPT:

とても大きくて大切な問いですね。「なぜこの世に悪が存在するのか?」という問いには、宗教的、哲学的、心理学的、さらには進化論的な観点からもさまざまな答えがあります。いくつかの視点を紹介します。


1. 哲学的視点(自由意志)

多くの哲学者は、「悪」は人間の自由意志の副産物だと考えています。善悪を選ぶ自由があるからこそ、「善」も価値を持つ、という考え方です。


例:アウグスティヌス(キリスト教の哲学者)は、「悪は神が作ったものではなく、善からの欠如(欠損)である」と述べています。


2. 宗教的視点

宗教によっても解釈は異なりますが、共通するのは「試練」や「魂の成長の機会」として悪が存在するという考えです。


キリスト教:悪はサタンや原罪によるものとされ、神の善を知るために対比として存在する。


仏教:悪は無明(真理を知らないこと)や煩悩から生じるとされ、悟りへの道の一部。


3. 心理学的視点

悪とされる行為の多くは、心の病、トラウマ、環境要因によって生まれると考えられます。


例:「悪人」とされる人も、育った環境や社会的な背景に苦しんでいることが多い。


4. 進化論的視点

生物としての人間は、「自分と自分の遺伝子を守る」よう進化してきました。争いや攻撃性、支配欲などは進化上の戦略の一部として残ったとも考えられます。


「悪」は生き残るための手段として現れることがある。


5. 社会的視点

「悪」という概念自体も、社会や文化によって定義されるものです。ある社会で「悪」とされることが、別の文化では「普通」だったりもします。


最後に…

「悪が存在するのはなぜか」という問いは、「人間とは何か」「善とは何か」といった根源的な問いとつながっています。答えは一つではなく、私たち一人一人が考え続けることに意味があるのかもしれません。

────────────────────

?????

ん?凄いいっぱい答えが返ってきたぞ?えっと…うん。良くわからないけどわかった。

正義と同じで人によって悪ってのは違うかもしれない。もしかしたら、僕が悪だと思っているだけで、山本くんはいい人なのかもしれない。よし!明日クラスメイト達に聞いてみよう!

────────────────────

「え?山本をどう思うか?嫌いに決まってんだろ。意地悪だし、プライド高いし、すぐに怒るし。あんなの嫌いじゃないやついるの?」

「山本くんの名前なんて聞きたくないからあまり言わないでよ…」

「山本くんかぁ…。うぅん…。まぁ、言わなくても分かるよね。」


あれ?皆からも悪って思われてる??じゃあ、山本くんって本物の悪なんだ!よし、それならすぐに懲らしめなきゃ!

作戦切り替え!山本くんの弱点を探る!

とりあえず尾行だ!それからは後で考えよう!


「おう、お前らゲーセン行くぞ。」


「「はい!」」


また取り巻きの2人がいる…。どうやら彼らはゲームセンターに行くようだ。よし、まだバレていないようだ…。

そこから数時間後…


「いやぁ、マジであのガキ気持ち悪かったな」


「そうですね山本さん!」


「ホントですよ!クレーンゲームで取った景品を俺らが取っただけでピーピー泣き喚いて…」


「これからの日本はどうなるのかねぇ…。やっぱり俺が引っ張っていくしか無いか!」


「かっこいいです、山本さん!」


彼らはゲームセンターで暴虐の限りを尽くしていた。クレーンゲームの景品を取った子どもからそれを奪い取ったり、格ゲーをやってた人達を脅してどかせたり…。

彼らは悪だ!

そういえば弱点の事忘れてたな…。ずっと見ていただけだった…

くそ!尾行続行だ!

と、メール?お母さんからだ!


『帰り遅いけど何処にいるの?』


『ごめん!ちょっと友達と遊びに行ってて…』


慌てて返信をする。嘘をつくのは僕の正義的にはアリな時もある。今回はアリ。嘘も方便でしょ?

山本くんが取り巻き達と別れて帰る。

でも、途中の公園で止まってブランコに座って項垂れ始める。

どうしたんだろう?いや、何かとんでもないいたずらをするのかもしれない…見張ろう…。


その10分後、山本くんはまるで意を決したかのように立ち上がり、帰り始めた。

そして家の前に着いたら、一息深呼吸して、


「ただいま…」


と入っていった。彼処の家が彼の家か…。よし、此処は近所にも聞き込みをするべきなんじゃないだろうか。今度の日曜日にでもこの辺に行って山本くんの普段の様子を聞こう!


「─────!────!」


なんだ?突然怒鳴り声が…あれは…山本くんの家?でもあれは山本くんの声じゃない…。

どうしたんだろう?と思いながらも結局何もせずに家に帰った。


────────────────────

今は日曜日。尾行をしてから2日が経つ。その間何回か山本くんにも絡まれたが頑張って逃げた。今の僕では情報不足であの悪を撲滅出来ない。そして丁度その地区のゴミを回収する日が日曜日だから、そこの時間の主婦を狙う。よし、居た。


「…」


なんて言おう…。話のとっかかりが…。考えよう…うーん。そうだよ。そこの家で怒鳴り声が聞こえたってことで事情を知っているか聞けば良いじゃないか。よし、これで行こう。


「あの…すいません…。」


「はい、何か御用ですか?」


「えっと…そこの山本さんってところの家から怒鳴り声が前聞こえてて…何か事情を知っていますか?」


「あぁ、山本さんのお宅ね。可哀想に彼処の坊ちゃんも。お父さんが大変な酒飲みらしくて毎晩毎晩家族に暴力を振るったり怒鳴ったりするらしいのよ。お母さんは働かないお父さんと坊ちゃんを養うためにいっぱい働いてて…お父さんから逃げる意味もあったんだろうけど。大体彼処の家はお父さんと坊ちゃんしかいないから坊ちゃんが凄い可哀想なことになっているのよ…」


「そうなんですか!?」


そんなに山本くんの家って酷い状況だったのか…。でも…


「あなた達は山本くんの家をどう思っているんですか?」


「可哀想よ…凄く。同情するわ…。」


こいつら、なんで見て見ぬふりをするんだ?


「警察に相談したりはしたんですか?」


「してないけど…」


「可哀想だと思っているのに?同情しているのに?そんな、酷い状況だと知っているのに!?あなたは今の今まで見て見ぬふりをしてきたんですか!?」


「な、何を…」


「失礼します!」


なんて酷いやつだ!苦しんでいることが分かっているのに見て見ぬふりをするなんて!

つまり、彼は被害者だということなのか…

チャットGPTによると心理学的視点って奴か…

よし、作戦は変更だ!僕が山本くんを救おう!

────────────────────

学校内で話したら色々とリスクがあるかもしれないし、取り巻きの2人が邪魔だ。帰り道にたまたま会ったふりをしてそれとなくやろう。

そして3人はゲームセンターに寄っていつものところで別れ、山本くんは公園のブランコに座る。そして、


「山本くん。」


と、話しかける。


「は!?てめ、なんで此処に!?」


「山本くん…」


「おいおい、てめぇなんなんだよ!ここまで来て!嫌がらせか!?あぁ!?」


「その意気で帰ったらどう?」


そして山本くんが冷水を浴びたような顔になる。


「チッ、知ってんのかよ、俺の家の事。笑いたきゃ笑え。だが他のやつに言ったら…」


「言わない。言わないよ。」


そう断言する。言うはずがない。


「僕は山本くんを悪い、悪だと思ってた。山本くんに殴られて自分の正義が負けたような気がした。それも、正義じゃなくて悪に。その間違いを正すために山本くんに復讐しようともした。」


「おい、てめぇ。」


山本くんが突然僕の胸ぐらを掴む。


「同情してんじゃねぇだろうなぁ、おい。そんな同情を俺がどれだけ受けてきたと思ってやがる。そして同情するだけで何もしない人をどれだけ見たと思ってやがる。俺は悪だ。悪い奴だ。言い訳なんてしねぇ。悪いやつなんだ。だけど、悪にもプライドってもんがある。安い同情なんて要らねぇんだよ!」


「じゃあ山本くんのお父さんにそのプライドが傷つけられてもいいの?」


再び山本くんが黙る。


「僕も見たよ。安い同情を。見て見ぬふりしている人達を。でも僕は違う。もう何も間違えない。絶対に。だから、僕は悪を、君のお父さんを倒す。それに山本くんは関係ない。」


「は…?」


「僕は山本くんのお父さんを勝手に倒したいだけだ。あいつは悪だから。その結果どうなるかなんて知った事じゃない。でも、僕一人じゃ難しいかもしれないんだ。だから、君の手を借りたいだけだ。」


「…」


「僕は同情なんてこれっぽっちもする気なんて無い。」


「お前に、今の状況が、打開出来るとでも?」


「出来る出来ないじゃない、やるんだよ。だって僕は、」


───正義なんだから。


その後の彼は憑き物が落ちたような顔で


「じゃあ手を貸してやる。その代わり、休日は家にいたくないから外に出てるんだ。その間暇だから付き合え。」


と言って帰ってった。


────────────────────

次の日曜日。僕は山本くんを僕の家に誘った。


「へぇ…。妖怪とか好きなんだ…。」


「妖怪っていうよりそういう伝説みたいな、怪異みたいな奴だな。あのクソ親父が呪われて死なないかなって思ってさ。」


「ふぅん。」


「特に憑き物みたいな奴だな。ほら、直接人を攻撃するんじゃなくて取り憑いて苦しませるやつ。」


「酷いこと考えるねぇ。」


「はっ。悪だからな。でも、親父に復讐するならそれに則ってやりたいな。」


「うぅん。だったらどうする?怪異とかの基本的ななるって苦しむもんだし…」


「冗談だ。なんかの刺激物を混入させたら万一死ぬ可能性も無くはないし、何分回復したら殺される。」


「ははっ。うーん。じゃあどうする?やっぱり警察かな。でも君が児童相談所に訴えたら済む話だけどそれじゃ呆気なさすぎてつまらないよね。」


「現行犯させるってのはどうだ?」


「確かにいいかも。やり方とかは、そうだな…」


「おやつ持ってきたよ、お兄ちゃん。」


「ありがとう。」


「おう、ありがとうな。」


「ど、どういたしまして…」


そそくさと弟が立ち去る。怖いもんね。見た目。


そして話し合いの末に成敗の仕方を決めた。

────────────────────

学校ではあまり山本くんとは話さない。でも、家で休日にいっぱい話す日々が続いた。そして、復讐の決行の前日。


「引っ越すことになった。」


「え!?」


「親父とお袋が離婚したんだ。復讐、結局出来なかったな。」


「そ、そんな…。引っ越すってことはこれが別れになるの!?」


そ、そんな!僕の正義が!悪を、悪を討ち滅ぼそうとしたのに!もうすぐだったのに!


「ははっ。不満顔だな。そんなに親父を懲らしめたかったか?てめぇはただ悪を嬲りたいだけじゃなかったのか?」


「へ…?」


「目的を履き違えんな。悪は居なくなったんだ。親父は消えた。お前の目的は達成だろ。」


「そ、それは…」


「悪を討ち滅ぼす事で自分の正義を正当化しようとしていたんじゃないのか?それは本当に正義なのか?」


「う…」


「お別れだから今まで言えなかったことをこの場で言うぜ。」


「な、なんだよ…」





「ま、冗談だけど」


「は!?」

は!?


「なんなんだよ!この辛気臭い雰囲気なんなんだよ!冗談なのかよ!マジトーンで言うんじゃねぇよ!」


「いやいや、マジトーンで言わないと冗談になんねぇだろ?明日決行日だぞ?覚悟を決めるっていうのはこういう事だろ?」


「それは、そうだけど…。言っておくけど山本くんの言葉結構心に響いたんだからね?」


「じゃあちゃんとそれを心に留めて正義を貫くんだな。」


う…。なんて無様…。でも、緊張はある程度和らいだ、かもしれない。


そして今日が決行日。何をするのか?それは今からのお楽しみだとも。

僕は自分の正義のためだが、山本くんにとっては自分の人生からの復讐。彼はお父さんを

「子供っぽいんだよ。何か悪いことがあってもそれを悪いことと認めない。酒飲んでる時は自分を認めるためのタガが外れてるのさ。」

と言っていた。悪は倒す。それが正義の絶対条件だ。

山本くんからの今までのお礼のプレゼント。

それは刑務所への切符。もう彼は容赦をする気は無いんだろう。本気で父を刑務所に送ろうとしている。現行犯で捕まえるには室内は難しいだから、何とかして外に連れ出さないといけない。そのための言い訳は既に考えている。簡単だ。お母さんに会わせるって言えばいい。

山本くんのお父さんは間違いなく山本くんのお母さんにストレスを抱えている。だから無理矢理にでも家に連れて行こうとするだろう。そして、非常に可哀想なのだが、山本くんのお父さんの暴行相手には山本くんの取り巻き2人を使う。了承は…取ってない。山本くん曰く、俺と一緒に悪いことをした罰、みたいな感じらしい。本人も悪いことをしているのにね。少しだけ理不尽だね。そして通報スタンバイ!殴り始めた瞬間通報!

よし、家から山本くんと山本くんのお父さんが出てきた…!向かう先は人通りが少ない商店街の方…!そしてそこにあらかじめ呼び寄せた取り巻き2人!後は任せた!


「なぁ、あのおっさん気持ち悪くね?」


「それな?なんか昼間から酔っぱらってるんだけど」


あいつらすげえ…。大の大人に言うなんて…。もしかしたら凄い意思があるのかもしれない…


「なんじゃガキぃ!聞こえてんぞこらぁぁ!!!」


うん。思った数億倍山本くんの予想通りになった。良く観察してるからかな。


「舐めてんじゃねえぞガキども!!」


「あぁ!?真っ昼間から酒飲んでる産廃が俺等に喧嘩売る気かぁ!?」


……なんか嫌な予感がしてきた…


「死ねクソガキ!」


「黙れクソジジイ!」


殴り合いになった…。これじゃあ暴行罪にならないよ…。もう警察読んじゃったのに…

と、ここで


「おい、お前ら何をやっている!」


と、山本くんが仲裁に入った。


「お父さん、ごめんなさい。こいつらは知り合いです。きつく言っておくので勘弁してくれませんか?」


「おおぅ!?てめぇの知り合いかよ!じゃあてめぇが責任取って殴られろボケぇ!!」


まずい!山本くんが殴られ始めた!どうすれば、


「そこの人、何をしているんですか!」


丁度いい所に警官が!もしかして暴行罪を成立させるために自分から…!


「はぁ!?これは暴行じゃねぇ!躾だ!!このアホ息子のなぁ!」


「これ以上やったら公務執行妨害でも逮捕されますよ!おとなしく署まで来てください!」


その場にさらに2人の警官が援護に来て結局山本くんのお父さんは連れて行かれた。

山本くんも被害者として連れられたから、結局再び山本くんと話す事が出来たのは次の日だった。

────────────────────

「上手くいったね!」


「あぁ、そうだな…」


どうにも彼は気落ちして見えるどうかしたんだろうか。


「なんか落ち込んでるようだけど、どうかしたの?」


「いや、まぁ。事情聴取されてる途中でこれでも彼は俺のお父さんなんだなって。」


「…それだけ?」


「いや、話すよ。昨日の夜お母さんが帰ってきてさ。離婚するらしい。2人が。」


「え?前みたいな冗談じゃなくて?」


「こんな時にか…?」


無言になってしまう…だって…だって…


「実は、さ。俺等がお別れになるのはなんとなく察してたんだ。親父が逮捕されたらお袋に離婚の踏ん切りをつけさせることになるんだろうなって。」


「じゃあ、前日のあれは…」


「お前じゃなくて、俺の覚悟を決めるための冗談だよ。お前と過ごした時間は楽しかったんだ。親父が居ても。休日一緒にお前と過ごしていた時、この時間が永遠に続けばいいとさえ思った。」


「お別れは、嫌だよ…」


「じゃあ、今度こそ今まで言えなかったことを言うぜ。」


まずはごめんな。最初殴って。凄く妬ましかったんだ。日々幸せそうに生きているお前が。なんで俺は親父にこんなに酷い目に合わされているのに、こんな能天気なやつが幸せそうに生きているんだって。だから、殴りたかった。殴りたくなったんだ。俺の方がお前より上だって、そう証明したかったから。俺は強いと。親父に日々耐えている俺は強い、だからお前らは俺より幸せそうにするな、と。でも、違うんだよな。俺は親父から耐えているんじゃない。逃げているだけなんだ。親父には抗えない。だから暴力に逃げていただけ。親父に向かって文句の一つも言えないのに度々人を脅しては快楽に浸っていた。

でも、お前と会ってそれは間違いだって気づいた。気付かされた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だから、俺はお前に憧れた。自分の正義を信じれる強いやつなんてあんまりいないだろ?

俺もお前と過ごした1ヶ月弱。たった1ヶ月弱だが、正義について考えてみた。俺は正義とはこういう事だと思うぜ?

自分の事を信じて逃げない奴。

お前とは意見が違いそうだな。お前の正義が何か、それは良くはわからないけど、考え方っていうのは環境から形成されるもんだ。お前とは絶対に違う。

ごめんなさい、のあとはありがとう、だな。

ごめんなさいでの別れ程苦しいものは無いだろうし。ありがとう。俺を救おうとしてくれて。お前は僕を助けるなんて1度も言ってないけどお前の気持ちは凄い伝わってきた。だから、ありがとう。連絡する事は出来るだろう。でも、もう連絡しない。お前は俺を忘れてさっぱりするべきだ。そして俺も。お互いにお互いを忘れて生きてくんだ。彼女作ったらいの一番にお前に自慢したかったんだけどな。ははっ。言いたいことはこれで全部かな。もう学校でも話さないようにしよう。これで完全なお別れだよ。元の状態に戻る。でも、決定的に俺は変わった。いや、皆も変わっていく。俺のように。大人になったらお前も決定的に代わるんだろう。だから、もしまた会ってもお前に気づかないかもしれないからな。ちゃんと、ここでさよならをしよう。


さようなら。

────────────────────

山本くんと別れてもう10年が経とうとしている。最後の山本くんの言葉が頭から離れない。いや、それよりもその前に山本くんが僕に言った、悪を倒すことで自分の正義を正当化しようとしている、という言葉も印象が強い。昔は他の人の正義と僕の正義を比べて僕の方が正しいと証明していた。でも、いつからか他者を正義じゃなくて悪だと決めつけて攻撃をしていた。もしかしたらその人に正義があったかもしれない。正義である絶対条件は正義の存在を信じる事だ。他の人の正義を認めなければ自分も正義とはならない。これを学んだ。

その上で。僕なりの正義を振りかざす。自分は絶対に間違いを犯さないように。

結局彼とはまだ一度も再会していない。

会ったかもしれないけど、気づいていない。それでいい。それでいいんだ。

最後に洒落を聞かせた一言。

もし、もし彼とまた再会出来たなら、

まるで、また憑き物が落ちたような顔で


「青春にそういうのは()()()()だろ?」


って言うんだろうね。

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