序章
6話、7話に残酷描写があります。
限界にまで、腕を伸ばす。
暗闇の中に、確かに見えたのだ。明かりを照り返した、小さな煌きが、あったのだ。
壁に当たってこれ以上は進めない。それでも、まだ腕を伸ばしきっていないだけだと、諦めきれない。
あと少し。
「う~ん……」
「おーいラウラ、いつまでやってんのー?」
遠くからイェフが声をかけてくる。
床に這いつくばったラウラは体の限界に挑戦中で、返事をするのもままならなかった。
床と壁の間に空いたわずかな隙間に腕を突っ込んで、もうだいぶ経つ。
「見間違いじゃない? 気のせいだよ。諦めたら?」
「うるせー」
歯の隙間から呻くように吐き出して、壁に頬を押し付ける。
指先に何か当たって、息を止めた。人差し指と中指の間に挟んで、慎重に腕を引く。
出てきたのは、金色の小粒だった。
「あったー?」
出入り口で手持ち無沙汰になっているイェフを振り返る。ラウラは指に挟んだそれを掲げ、歯を見せて笑った。
イェフがつられて、呆れ混じりに笑う。
「よく見つけるよ」
「親父さんには内緒な」
ポケットに手を突っ込んで、ラウラは立ち上がった。黒い色付きの眼鏡をかけながら、イェフの側へ歩み寄る。
外は乾いた風が吹いていた。先ほどより日差しが増したようだ。
「やべぇ溶ける」
外套のフードを被ってラウラは俯く。
地平線まで空と荒野が続いている。岩が陰影を付ける他は、何もないところだ。
「あーあー、顔まで汚しちゃって」
「親父さん、まだ戻ってこないか?」
「まだ。どこまで水汲みに行ってんだろ」
「もうちょっと探索してこよっかな」
「十分、取り付くしたって。無駄に体力使わないほうがいいよ。これから街に帰るんだから」
「隠し部屋とかありそうじゃね?」
壁を足で蹴るラウラにイェフは苦笑する。
「遺跡ごと破壊する勢いだね……もう十分だよ」
「んー、また変な怪物が出て来ても面倒だしな」
並んで、空を見上げる。
「熱ぃなー」
「熱いねー」
雲も避けて通るので、日光が直接振ってくる。
周囲に動く影は一つも見当たらない。
まだ当分、待ちぼうけをくらうことになりそうだった。