4 灰の都ゾンダ
俺は今ミトンさんから商隊について旅をするか、この砂岩の一族の村に残って生活基盤を整えるか選択を迫られた。
どちらにもメリットとデメリットがある。
旅についていけば見聞を広げて、もしかしたら地球に戻る手段が見つかるかもしれない。
逆にデメリットとしては、地球に帰れなかった場合、ここに戻ってくることもままならなくなることだ。
こんななにもない怪物だらけの砂の海をひとりで歩いてここまで来れると自負できるほど強くない。
つまり、もうここには戻ってこれないかもしれないのだ。
ここに残るメリットは生活基盤を整えられること。デメリットとしては、ここから出ることが困難になるということだろう。
地球への帰還を取るか、永住の地を得るか。
俺は地球に帰りたい。
みんなに会いたい。親に会いたい。
俺は無謀だと笑われてもいい。
だけど、地球に帰る。その可能性が少しでもあるなら、その可能性を模索したい。
迷うことなんて最初からなかった。
俺はミトンさんと一緒にここを出て地球への帰り方を探す!
「ミトンさん」
「なんだ?」
ミトンさんは俺の決断を聞くためにこちらを真摯に見つめてくる。
ミトンさんの額には脂汗が滲み、ソワソワと肩が揺れている。
緊張から来るものなのだろう。
「俺はミトンさんやデグンくんに見つけてもらえなかったら、もう生きてはいないと思います」
「ああ」と、短い声がミトンさんから漏れる。
「大蠍に食われるか、砂漠の熱で干上がるか、夜の砂漠で凍死するか。いずれかで死んでいたと思います。だけどミトンさん達が助けてくれた。それは変わりようのない事実です」
「俺はあなたたちに恩返しがしたい。俺のやりたいことが見つかるまでこき使ってくれませんか?」
「叔父さん」
デグンくんがミトンさんに声を掛ける。
「わかった。俺の考えすぎだったみたいだな。ユウセイ、付いてこい!こき使ってやるよ」
ミトンさんからそんな言葉が発せられる。
どうやらついていけるらしい。
絶対に地球に戻る方法を見つけてやる。
その後、また砂漠の旅が始まった。
あれから一月ほど経過した。
ラッタのあとにはトルン、ペラード、デリール、シャスト、ペリンという村に立ち寄った。その村はほとんど砂岩の一族だったが、シャストだけは流砂の一族だった。
流砂の一族も同じような民族紋様を彫っているようだ。
そのように思いふけっていると、ミトンさんから声が上がる。
「おお!ようやく見えてきたな。灰の都ゾンダだ」
灰の都ゾンダと言われたのは巨大な街だった。
人口はおおよそ一万人レベルで住めそうだ。
「この街はな、鍛冶の街とも言われていてな。灰装武装の生産地なんだ」
「灰装武装?」
「それじゃあ、灰装武装については僕から話すよ」
ポルンが話しかけてくる。
「僕の腕についている腕輪型のものが灰装武装で、このとっかかりを引っ張るとこういうふうに網が出てくるんだ」
灰装武装の取っ掛かりを持ち、網が出てくる。
網目は緩く、1センチ程度の大きさの穴になっていて、小さいものを入れるようにできていないのがよくわかる。
「このとっかかりに鉱石類を入れるとこういう風に灰を作れるんだ」
ポルンの手の中で灰が舞う。それは空から落ちてくる牡丹雪のようだった。
「この灰装武装は安い低級のものだからあまり強い攻撃はできないけど」
そう言いながら灰を操作して近くの小石に玉としてぶつけると、小石は40センチくらい吹き飛んだ。
「すごい」
この大きさの小石がおよそ10倍近い距離を飛ぶとは。
しかもヒビが入っている。
話を聞くと「旅の願い」のみんなはここ灰の都ゾンダ出身らしい。
「ユウセイ。先に探検家ギルドに行って警護依頼の達成と、次の都までの警護依頼を出しに行くぞ」
「旅の願いのみなさん、ありがとうございました」
「ええ。ユウセイさんもこの先の旅に"破滅"の加護があらんことを」
優しい顔をした男クラウンが代表して話をする。
「はい、ありがとうございます」
ペコリと一礼してある屋敷に入っていった。
この屋敷が探検家ギルドらしい。
俺とデグンくんは二人で待ちぼうけを食らうことになる。
二人で話し込んでいると、ミトンさんが戻ってきた。
「このあとは得意先のアルローってやつのところに行くからな」と、ぶっきらぼうに言い放つ。
デグンくんから聞いたところ、アルローという人はミトンさんの商売相手で、南から持ってきた魔晶鉄を売る代わりに、灰装武装を作るときにできる高純度の魔鉄を取引するそうだ。
この街では魔鉄は価値が低く、石の武器と同じ値段で取引されるらしい。
まあ、高純度だから多少は高くなるけど、銀製品などよりは格段に低い値段だという。
他の都、特に東の方で売れるらしい。
珍しいものが好きな狸がいるとか。
おそらく狸というのは何かの比喩だと思うが。
多分その人に会うことになることがあるかもしれない。
そんなこんなで、ゾンダの中心街から一本裏道に出たスラム街の半ばにある武器屋に着いた。
看板にはローシェン工房と書いてあった。
木製の看板はすすを纏い、薄汚れていた。
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