深淵の森での一週間生活 大海原のダンジョン編 ⑤
あれから、亜空間ワールドに戻って夜を過ごした次の日ーーー
僕らが乗った本船は、朝から順調に航海中。
昨日の事もあり自発的に本船の警護をしてくれている力也さんと雅也さん。ジュドは二人が倒した魔物を取り込む為に、二人の間を行き来しているみたい。
え?残りの僕らはどこにいるのかって?
「まさか船に炬燵ができているとはねぇ」
船室で肩まで炬燵布団にくるまり、僕が出した緑茶を嬉しそうに啜る空我さん。
「空我は行かなくて良いの?」
座椅子に寄りかかり炬燵から抜け出せ無くなっている楓さんが、ぬくぬくしている空我さんに足蹴をしながら聞いている。
「良いの良いの。俺はアクア様に訓練言われてないし」
「空我に我が言わなかったのは、既に気づいていたからだ。空我は闇魔法と音響魔法の掛け合わせで……」
「あ!アクア様まだ言っちゃ駄目っすよ!みんなを驚かせるんすから!」
「ふむ。それもまた面白そうだ」
「え、なに?なんの事?」
出るつもりのない空我さんと大きめの座椅子で寛ぐアクア様が、緑茶を飲みながら会話してるんだけど、その話は僕も聞いてなかったから、楓さんと一緒に二人に質問しているところだったんだ。
なんで炬燵に入っているのかっていうと、昨日から亜空間ワールドに雪が散らついた事がきっかけなんだ。
亜空間ワールドにも四季がある事は前に伝えていたよね?初めて入った時は秋の終わりだったから、とうとう来たかって思っちゃったよ。
そして、ジュドに出してもらった江戸時代に使っていた暖房器具、囲炉裏と炬燵と火鉢。
魔法で寒さ対策もいいけど「風情を楽しむのもまた良いよね」という雅也さんの意見に皆も同調し、布団と木の櫓に火災防止と保温の付与魔法をかけて使っていたんだ。
因みに、江戸時代の炬燵は、掘り炬燵のように下に火鉢を置いて、木の櫓を置いて布団をかける単純なもの。
流石に少しは工夫をしたよ。火鉢の上にも櫓を組んで、櫓に熱のみを通す付与魔法も追加でかけて、足を伸ばせるようにしたんだ。
後は、異世界版らしく長方形で高さのある大きめの炬燵になったってとこかな?アクア様が入るには、江戸時代そのままだと小さすぎたんだもん。
おかげで雪が散らついていても、炬燵に囲炉裏に火鉢も揃うとあったかい、あったかい。
で、どうせなら船にも炬燵あれば、って話しになってジュドが炬燵作ってくれたんだ。あ、流石に船は火鉢無しで、炬燵用掛け布団に付与魔法で温度設定しているよ。
まあ、船内が快適すぎて、外に出れなくなっているんだけどね。
『マスター、島が見えましたよ』
そんな中、外から念話で島が見えた事を知らせてくれたジュド。了承の返事をし、船内にいる全員を連れて甲板へと上がって見えてきた島は……
「へえ!流石、食料島!自然豊かだな!」
空我さんが身体を伸ばしながら感想を言うと、最初から様子を見ていた力也さんが違和感を伝えてきた。
「まあ一見そうなんだけどさ……」
力也さんが指差す先の浜辺には、貝がいるみたいだけど、量が問題だった。
「は?地面がめっちゃカラフルなんだけど?なにアレ?」
浜辺に打ち上げられた大きな貝の大群は、赤やオレンジ、青や白といった原色そのもの。
「ああ、オムニヴォア貝か。アレは悪食でな。食べた物の色になる貝だの」
やっぱりアクア様が知っていたけど、あの貝は近くにあるモノをなんでも食べる、貝にあるまじき二枚貝。陸でも生きられる魔物らしい。
弱点は貝の接合部分の核だけど、貝の触手に捕まったらなかなか取れないらしく、そのまま貝の中に引きづり込まれると一晩で消化されてしまうんだって。……結構、恐ろしい魔物だよね。
でも、陸では動く事はそうそうないので、素早く後ろに回って核を壊しさえすれば、安全らしいし何より色んな味があるらしい。
「よっしゃ!なら、探索がてら採取してこよーぜ!」
面白い事に乗り気な空我さんの意見に全員が賛成。チーム編成でこの島を見て回る事になったんだ。
と言っても、僕とジュドとアクア様で一組だから、結局は風光の跡メンバーで一組となる。
「じゃ、また昼に船が見える浜辺で集合でいいかな?」
島に上陸した雅也さんの提案で、左右に分かれる事になったんだけど。あ、力也さん空我さん、早速貝の核を壊し回ってるや。
ここは任せて良いと判断した僕らは、左周りで島の内部へ入っていったんだ。
「それにしても、陸地のあちこちに貝がいるって不思議だなぁ……」
「淘汰よ。アレはかなり濃い味の貝だが、肉と合わせると美味だぞ」
「え?どれです?」
僕が違和感が凄いと思っていたら、アクア様が教えてくれたのは、木の下に居るクリーム色のオムニヴォア貝。
貝殻の周りには木ノ実が沢山落ちている事から、木ノ実を食べた色だとわかるけど……
「では、早速」
アクア様の言葉に興味を持ったジュドが、素早く雷撃で貝の核を破壊。即座に亜空間ワールドに取り込むと、発覚したのが嬉しい驚きだった!
「え?バター化してる?」
「身の部分がバターになっていますね。多分、そこの木ノ実の中身、濃いミルクですよ」
「え?マジで!?」
僕が見上げると、ココナッツのような実がたわわに実っていたからさ。浮遊魔法で上まで行き実を採取して、ジュドに取り込んで確認してもらったんだ。
そしたら、本当に牛乳の様にミルクそのものだったんだよ!思わずその木の周辺のオムニヴォア貝を採りまくったね。
嬉しい事に、更に濃い色のオムニヴォア貝はチーズになっていたんだ!
ミルクにチーズにバターが採取できるなんて!と感動した僕は、ジュドにこの木を取り込んでくれるよう頼んだら、「島ごと取り込みますから」とジュドに言われて、そういえばと思い出した。
じゃ、確認作業だけで良いか、とアクア様を振り返って見ると、アクア様の後ろには大きな鳥が横たわっていたんだ。
「え?アクア様、いつの間に?」
「ん?淘汰を狙っておったからの。先に始末しておいたわ」
アクア様はさも簡単に言うけど、ジュド曰く……
「アレはゴールデンカイト(トビの魔物)ですね。一応、危険度Bランクですよ?風魔法を操り攻撃しては獲物を掴み素早く飛び去る厄介な鳥種の魔物です」
うえええ……僕、狙われてたのか。
ちょっと背中がヒヤッとしたけど、考えてみれば食料島って事は、魔物の食事場所でもあるって事だもんね。気をつけなきゃ……!
なんて一幕もあったけど、ジュドにアクア様が居れば僕は安全そのもの。一撃で倒しちゃうんだもん。だから僕は採取に集中出来たんだ。
「あ、コレ油だ!植物油はめっちゃ嬉しい!」
「淘汰、あの赤いのは甘いぞ」
「ええ!ジュド!取り込んでみて」
「マスター、面倒くさがらず鑑定使って下さいって……」
とまあワイワイ賑やかに採取しつつ、昼近くになった頃に浜辺に戻った僕らとほぼ同時に、あちらのチームも戻ってきたんだ。
「淘汰ー!大漁大漁!」
「ここすげえ!魚肉ソーセージもあったぜ!」
「カカオの実見つけた!」
「貝が鳥を食べるところ見たよ……」
大漁と叫ぶ力也さんに、どうやらツマミ喰いを既にしたらしい空我さん。楓さんは「チョコ!」とジュドに期待の目を向けていたし、雅也さんは微妙な物を見たのか苦笑い。
無事に戻ってきた風光の跡メンバーも、ゴールデンカイトやブラックイーグル等の魔物も討伐していたから、コレは焼き鳥もやろう!と亜空間ワールドでバーベキューにする事になったんだ。
結界を張っていた船に全員で戻り、ジュドが島を亜空間ワールドに取り込むと、そのまま僕らは船ごと亜空間ワールドに戻ってきたんだよ。
で、雪が散らつく中、暖かい囲炉裏を囲んで始まった室内バーベキュー大会。
貝の色で味を予想するんだよ?そうなるとどうなるか……?
「ぎゃー!何これ苦えええ!」
「馬鹿だな、空我。それカカオの近くにあった貝じゃんか。うーん、だけど紫も気になるよなぁ。……って何これ!美味え!海鮮の旨み成分たっぷりじゃん!」
「ほう、力也は良いのを当てたの。それは海藻とレッドシュリンプを食っって育ったやつだの。我も好物だ」
「え?じゃあ、オレンジのこれナニ?」
「楓が持っているのは、甘い貝だ。木蜜を食って育ったもので珍味だの。我は好かん」
「淘汰、これホタテバターじゃん!うっま!」
「へへ、僕らが最初に見つけたクリーム色ですね。雅也さん、濃い色の方はホタテチーズ味ですよ。醤油を加えると美味しいんです!」
「マスター、海鮮味噌汁出来ましたよ」
焼き鳥も焼く僕の横でしっかり料理してくれるジュドも入れる様にした囲炉裏部屋は、大賑わいのほっかほか!
火の近くだから汗もかいてきたし、美味しいしお酒は入るしで、この日もやっぱり宴会になったんだ。
「ダンジョンって美味しいんだね!」
ニコニコ言う僕に、全員から即座に「淘汰だからだ」とツッコミが入ったけどね。
でも、次の島はどんな美味しい島かワクワクしていた僕を待っていたのは、意外な島だったんだよねぇ。




