─雨女─
気が重い。
体がだるい…。
梅雨前だと言うのに、暑い日が続いて辟易してるのは僕だけではないはずだ…。
そろそろ梅雨に入って涼しくなってくれないかなぁ。
そんなことを考えていた矢先、雨でもないのにずぶ濡れの女の人を見つけてしまった。
あれは、やばい。
祖父の言葉が頭をよぎる。
同じも者だと言っても、機嫌がいい時もあれば、機嫌が悪い時もある。
特に自然相手に干渉できるような奴はきをつけろ。
あいつらの機嫌は梅雨の空模様みたいにころころ変わりやがる。
雨女がいるところには、干ばつの文字はない。
その名の通り、雨と共に在るのだ。
放置してる分には問題はないかもしれない。
もし機嫌の悪い時にあたったら、最悪命はない。
しかし、いつの間にか姿を消していた。
ホッと息をついた瞬間。
が。
後ろから首を掴まれた。
気づかないうちに後ろに回り込まれていたらしい。
「く…あ…っ!」
ギリギリと爪が食い込み、血が滲む。
振り解こうともがくが、雨女の力は異常に強く、ビクともしない。
息ができず、血液も止められた意識が霞掛かる。
意識を手放す瞬間。
苦しくて開けた口から、なにかが飛び出し。
「はぁ、はあ、…」
見れば中にただよう朧な光。
あれは、鬼火か…。
それと同時に、自分の中にあった陰気がなくなっていることに気がついた。
陰火に照らされた雨女を、大きく息を吐き、喉を抑えながら見上げる。
その口元は、笑っているようにみえた。
そして、俺の陰気は陰火となって、雨女とともに消えて行った。
もしかしたら、雨女は機嫌よく僕の陰気を連れて行ってくれたのかも知れない。
もう少し方法は考えて欲しかったが…。
そして、降り出す雨。
その日、この街も梅雨入りしたと後で知った。
あの雨女は、梅雨を連れてやってきたのかもしれない。