─垢舐め─
友達曰く。
風呂に入っても、体をボディーソープつけて洗わないんだよ。
臭くないだろう?
こいつとはちょっと距離を置こうと思っていた矢先、祖父のある言葉を思い出していた。
垢というのはなにも、体からだけ出るもんじゃない。
嫌な思い出や、大切なこと、
肝心なことから溢れる垢もある。
と。
そういえばこいつは能天気だが、もしかしたら、嫌な思いとかも全部垢になって流れて行くのかもしれない。
そこまで思ってから、はたと気付く。
垢は本来溜まって行くものだ。
それこそ、垢すりなんてのがあるくらいには。
しかしこいつはシャワーだけで済ませて、垢なんか落としちゃいない。
ならば…。
そう思い、その友達を観察する。
人との約束を忘れる。
時間も守らない。
レポートなんかもよく忘れる。
人の顔と名前を一致させるのは苦手。
もし。もし、こいつの垢がたまりまくっていて、なにかがその垢を舐めているのだとしたら?
その垢だけではなく、心とか記憶とか、そういったものまで舐め取る事に味をしめてしまったとしたら…。
それからその友人は事故で死んだ。
山道で、崖から落ちたのだ。
しかし、不可解なのはブレーキを踏んだ形跡がない、というところだ。
もしかしたら、友人はブレーキを「忘れた」のかもしれない。
いや、舐めとられ、食べられ、無くしてしまったのかもしれない。
垢舐め。
それはそんなは可愛らしい怪異ではなかったのだ。