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百鬼徒然  作者: 葛葉幸一
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─木霊─

ー我ヲ魅ヨー

ふと気が付くと大きな木の目の前で立ち尽くしていた。

ー我ヲ魅ヨー

同じ言葉が木霊する。

木の傍らには大きな塚があり、そこには歳月が経読みづらくなった文字でこう書かれていた。


「木魅」

なんと読むんだろう?

こ、だま?

これで「こだま」と読むのだろうか。

しかし確かに、木を見上げて思う。

これは木魅だ。

またもその木に魅入ってしまう。

ー我ヲ魅ヨー

さらに呼ばれて木の奥にある社に目を向ける。

社の扉には大きく「魑」とある。

あぁ。この神社は奉神とご神木でひとつなのだ。


ふと、そのとき。祖父の言葉がよみがえる。

魑魅は山の怪、魍魎は川の怪。二つは別物のようで一つの、訳のわからん化け物よ。

もし魑魅がいるなら、その近くにはー

ゾクリと背筋の凍る思いがして山の方を振り向く。

この山には川も流れていたはず。

この「魑魅」は神として奉ることによって、荒御霊が静められているが、「網魎」の方は?

もしそれに魅入られていたのだとしたら……。

ー我ヲ魅ヨー

再び呼ばれて木を見る。

さっきは気が付かなかったが、小さな木の実が二つ落ちていた。

木の実・・・。

そうか、そうなんだ。

これも「こだま」だ。

少し安心する。

「児玉」は「児(子)は玉(宝)」なんだ。

そして、魑魅と魍魎とはセットで考えられることが多い。ならば。

ぼくは、その木の実を拾い上げると山の 中に分け入る。

しばらくして、川のそばにたどりついた。

河原には人形が落ちている。

赤黒い肌に赤い目に長い髪。一般的にな網魎の姿の人形だ。

僕はその人形のそばに恐る恐る近づくと、手に持っていた木の実をうえる。

ー良く実りますようにー

祖父曰く。

古くは「実鬼みのり」とも呼ばれていたらしい。

これでこの地に木が生えれば、魑魅と魍魎はまたひとつになるのだろう。

そして、僕はこの人形を持ち帰ることにした。

木の実を植えた瞬間網魎の顔はなくなり、なんの変鉄もないさるぼぼ人形になっていた。

なるほど。案外この神社の魑魅魍魎はイタズラ好きらしい。

木霊に呼ばれて木魅に魅入られて児玉を運んで手に入れたのが子宝厄除けの御守り人形。

この人形は大事にしないと罰が当たるなと思いながらも、相手がいないことに軽く落ち込むのだった。

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