─古杣─
大学に行く途中、長らく工事している駅を毎回通るのだが。
「おおい! 危ないぞ!」
と言う声とともに、轟音が聞こえる。
思わず上を見るが、特になにもない。
あたりの人も、何事かと僕を見る。
今の声と音はいったいなんだったのだろう。
その時、祖父の言葉が思い出された。
昔から音だけの怪はよくあることよ。
木が倒れる音を出し、注意を呼びかける。
古杣だの天狗倒しだの言われちゃいるが、山がなくなった今、どう怪異を起こすか、わかったもんじゃねえぞ。
それからしばらくして、工事の人に話しを聞くことができた。
やはり、声や音だけ聞こえて、実際には何も起こっていないことが多いそうだ。
いたずらの可能性も含めて警察に相談済みらしいが、犯人は捕まっていない。
しかし、作業員はそれでも仕事をしなければならない。
そしてついに。
事故が起きた。
いつもの如く、誰かのいたずらだろうと思った作業員が、声に耳を貸さず仕事を続けた所、瓦礫の下敷きになったのだ。
本来人の命を奪うことまではしない古杣だが、住処を奪われ、忘れ去られ、ぞんざいに扱われてその怒りを露わにしたのかもしれない。
自然と共に合った怪異は、あらたな居場所を求めてこの都会をさまよっているのかもしれない。