─テケテケ─
朝、通学途中の電車の中。
人身事故のため、電車がとまっていた。
この時期には多くなるな、と思いつつ車内に閉じ込められてしまったので、友達に一報いれて、朝イチの講義は出れないかもメールを送った。
ずるり……。
なんの音だかはわからないが、なにかを引きずるような音がした。
ずるり……。
また、今僕はイヤホンで音楽を聴いている筈だ。
ズルリ……。
電車の事故から生まれた有名な妖怪を思い出す。
上半身しかない、テケテケという妖怪だ。
北海道で事故に逢い、上半身と下半身が千切れてしまっても、寒さのあまりに出血が止まり、数分間もがき苦しんだという。
その時、祖父の言葉を思い出した。
とかく、凄惨な事故ってのは怪談になりやすいのさ。
番町更屋敷だお岩だなんて悲劇もその類よ。
そして、そいつらはそいつらを信じる者がいる限り成仏できねぇのさ。
呪いみたいなもんだ。
呪縛霊、とでも言うのだろか。
こういう類の霊は、その霊の成仏を祈ってあげるといい。
心の中でお祈りをすると、電車が動き始めた。
これなら講義も途中参加できそうだ。
こうして授業に出れたわけだ。
結局、あの音はなんだったのだろうか?
音だけの怪異か、空耳だったのかも知れない。
ずるり……。
ひときわ大きな音がして、僕は机の下を覗き込む。
ーー足、いりませんか?ーー