─提灯お化け─
ひどく懐かしいものを見てしまった。
それは今や忘れ去られた提灯お化け。
「けけけっ」
と鳴くと、付いて来いと飛んでいく。
祖父の言葉を思い出す。
お化け幽霊、妖怪なんぞは人間が信じちまうから生まれるんだ。
そして、使うものは年代を重ねるごとに変わっていって、古いもんは滅びゆくのよ。
もう使わねぇもの、あんだろ?
ああいうのは境を隔てた向こう側に行くのさ。
境の向こう側、と祖父は行った。
時代遅れになり、人からも忘れ去られた妖怪。
それは妖怪たちにとっての天国や地獄のようなものなのか。
赤提灯お化けはフラフラと一軒の酒場に入っていき、そこで姿を消した。
「いらっしゃい」
老夫婦が二人で切り盛りするような小さな酒場。
外には赤提灯が、下げられている。
少しはあのお化けも集客になっているのかもしれない。
それは、付喪神のように年月を経てこの老夫婦に、恩返しがしたかったのか……。
たまには美談も悪くない。
そう思ってから数日後。
その酒場は無くなっていた。
なんでも火の不始末で火事になったそうだ。
死者は二人。
あの老夫婦だ。
「けけけっ」
またあの声を聞いた。
あれは老夫婦を守るものだったのか、それとも仇なすものだったのか。
最後までわかることはなかった。