─雪女─
山で遭難した男は、雪女と約束をする。
「私の事を誰にも言わなければ、命は助ける」
その後男は、雪女のことを誰にも話さずに暮らしていた。
数年後。妻帯者になった男は、もう大丈夫だろう、と妻に雪女のことを話してしまうのだ。
すると妻は妖怪に変幻する。
その姿はまさに雪女。
そして、約束を破った男は氷漬けにされ、雪山へと連れ去られたという。
祖父曰く。
神や悪魔や悪霊なんてのは『約束事』が好きな連中だ。
それは口約束でも、違反したら逃れられないのさ。
奴らと話す時は気をつけろ。
魂持っていかれるぞ。
もう4月も半ばだと言うのに、ひどく寒い夜があった。
ちらりと外を見ると、女が一人で雨の中立ち尽くしている。
濡れ女子か?
いや、違う。
あれは……。
僕は慌ててカーテンを閉めた。
目は、合っていない。
心臓が早鐘を打つように鳴り響く。
そして、何の気なしに後ろを振り返る。
「見たね…」
先ほどの女が後ろに立っていた。
「……っ!?」
「死ぬか、わたしの事を未来永劫誰にも話さないか、決めなさい」
それは言霊。
しかし。
しかし、僕も言霊は得意な方だ。
「み、未来永劫話さない!そ、そのかわり……」
僕は頭を回転させる。
この場合、おそらく生き続けても、死ぬ間際に僕の魂を奪いに来るだろう。
「僕が天寿を全うしたら、天国に行きたいんだ!でなければ…」
僕はスマホを見せる。
「世界中にあんたのことを、話してやる!」
「……?」
どうもスマホがよくわからないらしく、一から懇切丁寧教えてあげる。
「人間も変わったのね……。あなたの条件飲みましょう。それと」
「ま、まだ何か?」
「あなた、なかなか物の怪に好かれやすいみたいだから、これを持ってなさい。天寿を全うするまで、あなたの魂はわたしのものよ」
それは、氷でできた、タリスマンのネックレス。
これはなんなのか聞こうとした時には、雪女はすでに消えていた。
しかしこれだけはわかる。
僕の口車に惑わされた雪女は、僕が約束を破るか、死ぬまでは僕の味方だ、と。