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6話.勇者の過去



「こいつだけ!?どういうことだ!なんでそんなことが言えんだよ?」

そこで会話に割り込んできたのは、ザックだった。


なんでお前が返事すんだよ、しかもカイマンさんにまで喧嘩腰に、といつもなら心の中でツッコミを入れていただろうが、それどころではなかった。


驚いて動けないでいたからだ。

俺はカイマンには嫌われていると思っていたのに。

そのカイマンが姪であるソフィを俺に託してくれるなんて思いもよらなかった。

3年前のことについて罵倒を聞く覚悟さえしてきていたのに。


「おい!お前また」

ミカエラが嗜めようとするのを、ギロリとカイマンが睨んで止める。


「君は?」

「勇者一行の戦士にして、ソフィの相棒ザック・ウォーリーだ」

「そうか。勇者一行か」

カイマンは納得したと同時に、不快感をあらわにした声で言う。


その態度に、さすがのザックも少しだけ狼狽えた顔をした。

ソフィの親戚にそんな態度を取られるとは、思っていなかったのだろう。


俺もカイマンさんがそんな風に怒ると思っていなくて驚いたくらいだ。


「私が娘同然に可愛がってきたソフィを奪い、あまつさえこの3年挨拶にすらこなかった無礼者ども。よくも私の前で顔を出せたものだな」

吐き捨てるようにカイマンは言った。


「はぁ!?奪った!?ソフィは魔王を倒すために望んで」

「自惚れるなよ。ソフィはそんなことを望んではいない!ソフィが本当に望んでたのはな、レオくん。君と一緒に冒険をすることだけだ」

「え、俺?」


そうして、カイマンはソフィの昔の話をしてくれたのだった。




それは、ソフィが9歳の時のこと。

とある街が大量の魔物に襲われた。

襲撃後の光景はひどいもので、建造物は全て瓦礫の山へと変わり、住人は全員惨殺された。

1人の少女を除いては。


なぜ少女が生き残ったのか、誰にも分からなかった。

奇跡だとしか言いようがなかった。

奇妙なことに、少女にはその時の記憶がなかったらしい。

だが、そんな疑問はすぐに皆の記憶から忘れられ、少女は親戚のいる村へと送られた。


その少女こそが、後の勇者ソフィである。


カイマンが初めてソフィを見た時、彼女は死んだ目をしていた。


9歳の子供とは思えない、この世の全てに絶望したその目。


カイマンも事情は知っていた。

だから、凄惨な事件を忘れさせようと、あらゆる手を尽くした。

本の読み聞かせや子供が好きなおもちゃを与えた。気分転換に運動をさせたり、旅行に行ったりもした。


だが、何をしてもソフィの表情が変わることはなかった。


そんな状況が続き、カイマンが諦めかけた頃だった。

ある日を境に少しずつソフィの表情が少しずつ変わっていったのである。


驚いて何があったのかと問うと、村でクワを振っている1人の少年ことをソフィが話してくれた。


ソフィはその少年に強い興味を持っているようだった。

良い兆しを感じたカイマンは、近所の子で明るくいい子だから話しかけてみれば、とアドバイスをした。

彼のことはある程度知っていたのだ。


そのアドバイスは正しかったようで、次の日ソフィがなんと小さな笑顔を浮かべて帰ってきたのだ。


そのことにカイマンは衝撃を受けた。


あの、この世の全てを諦めたような目をしていた少女が、年相応の明るい顔で帰ってきたことが信じられなかったのだ。


カイマンは、レオという少年にとても前向きだというイメージを持っていた。

勇者になると、実直にクワを剣に見立てて素振りをする姿をよく見かけていたからだ。

その姿からは真剣さがよく伝わってきた。

その真剣な姿勢が、ソフィの心を生き返らせてくれたのだろうと思った。


もちろん、ソフィはすぐに立ち直った訳ではない。

だが、ソフィがレオと過ごすうちに、少しずつ、少しずつソフィの絶望の顔は消えていったのだ。


カイマンは、ソフィの考えを直接聞いたわけではなかった。

心のトラウマをわざわざ掘り起こすこともないと思ったからだ。


だが、それでもソフィを救ったのがレオであることは間違いがない。


だって、ソフィは毎日レオと遊んだことを嬉しそうに話してくれるのだから。

そして、

「いつか、レオと一緒に冒険をしたい。レオの横に立てる自分になりたい」

といつも言っていたのだから。



だから、どんな関係であれ、ソフィはレオとずっと一緒にいるにいるべきだと考えていたのだ。


故に、ソフィとレオを引き離した王都の騎士を、カイマンは強く恨んでいた。


騎士団は、ソフィにこの村に帰ることすら許さなかった。

魔王を倒すのに、ソフィの心が鈍るからと。

ソフィに会わせてくれと問い合わせても、いつも断られた。

農民風情が口を出すなと、いう態度が透けて見えた。

そんな無理矢理なやり方をするやつらの元にいて、ソフィの心の傷がぶり返しやしないかと心配していた。


そして、今話しを聞けば、ソフィが魔王の呪いとやらに打ち勝てないのは、心の傷が原因だという。


案の定だ。

ソフィがそんな目にあっているのは、全てレオとソフィを引き離したお前らのせいだ。


カイマンは、そんな自身の不満も含めて、ソフィのことを全て話してくれた。


そして、最後に

「レオくん、ソフィを頼む」

と言った。





同時刻。


「勇者は見つかったか?」

「はい、地方の村に身を隠しているようです」

暗い部屋で2人の男たちが話し合っていた。


「そうか、では行くか」


そうして、魔王は椅子から立ち上がった。

今度こそ勇者にトドメを刺すために。












読んでくださりありがとうございます。


もし少しでも気に入っていただけたのであれば

下にある☆☆☆☆☆から、評価をくださると嬉しいです。


ブックマークや感想もよければお願いします。


「かつて最弱だった魔獣4匹は、最強の頂きまで上り詰めたので同窓会をするようです。」

も連載中なので、よければそちらもどうぞ。

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