4話.勇者救出
「ソフィ」
俺は、ソフィの遺体を見てその場に崩れ落ちた。
勇者一向の目的が分かった。
この亡骸をソフィの故郷であるこの村に届けに来たのだ。
綺麗な顔で目を閉じている少女。
俺は彼女の隣に立って戦うものだと思っていた。
だが、才能の差という非情な運命が、俺たちを引き離した。
俺はソフィが死んだというのに、隣にいることすらできなかった。
涙が込み上げてくる。ソフィが生きている時は、あれだけ拒絶していたのに、死んでしまったと思うとそんな気は失せる。
胸中にあるのは、罪悪感と無力感だけだ。
もし俺に力が、才能があれば、何かが違ったのだろうか。
なぜ神様は、おれにソフィと釣り合うだけの才能を与えてくれなかったのだ。
子供の時、俺の馬鹿みたいな夢物語をいつも笑って聞いてくれたソフィの顔が脳裏に浮かぶ。
ソフィは大人しかったが、感情表現が豊かでいつも笑っていたり、困っていたりするいろいろな表情が思いだせる。
そんな表情が好きだったのに、もう見ることはできないんだな。
そう思うと涙が止まらなくなった。
3年前に捨てたはずの過去なのに。
「勘違いしないで欲しい。ソフィは生きている」
その時、女が言った。
「え?」
死亡という記事。あれは嘘だったということか?
「呪いにかかり、仮死状態になっている。魔王の呪いなど普通抗いようもなく即死だというのにまったく凄まじいものだ。だが、目を覚さないんだ」
女は悔しそうに言う。
「呪いは怨念の力。耐え切ったというのならば、強靭な精神力を持つソフィならいずれ目覚めると初めは思った。だが、ダメなんだ。ソフィは心の中に傷を抱えている。その弱さにつけ込むように怨念がソフィの精神を侵食して蝕んでいるらしい。私たちではどうすることもできなかった」
「心の傷?」
「そうだ。それは私たちが踏み込めない領域だ。だがレオ殿、貴殿は違う。ソフィと幼馴染だったレオ殿ならあるいはと思ったんだ。だからお願いだ。ソフィを、私たちの仲間を助けてくれないか」
「ソフィを、勇者を助ける?俺が。そんなこと言われても、俺なんて所詮村人で、呪いなんて」
「先程も言ったが、呪いの即死効果自体はソフィが弾き飛ばした。その精神力でな。あとは、心の傷だけなんだ。それさえ乗り越えられれば、ソフィは目を覚ますはずだ。」
「そんなこと言われても、えっと」
じっと女の方を見る。
そう言えば名前を聞いていなかった。
そのことに女も気づいたようで自己紹介をしてくれる。
「失礼した。そう言えば色々あって名乗っていなかったな」
色々というか、男の方がずっと不機嫌だったからだろと思う。
そのせいで自己紹介がなくても勢いで話が進んでたし。
ちらりと女が男の方を見る。
私がお前の分も名乗っていいかというアイコンタクトだろう。
男は、不貞腐れたような顔で、そっぽを向いた。
それを肯定と受け止めたのか、女は男の分と合わせて名乗ってくれる。
「私はミカエラという。こっちの拗ねてるのはザックだ」
「おい!拗ねてねぇよ」
ザックはミカエラを睨みつける。
「拗ねているだろう。既に私たちは全て手を尽くした。私たちにはどうにもできないんだ。それが受け入れられない気持ちは分かるが、レオ殿に当たるな。それは、誇り高い勇者一行のすべき事ではない」
「チッ!そんなんじゃねぇよ。俺たちにすらできなかったことが、こんなナヨナヨした野郎にできんのかって疑問に思っただけだ」
悔しいが、ザックの言う通りだ。
俺は言い返さずにうつむく。
「おい!いい加減にしろ!それは頼む立場の態度ではない。大体これは、精神・・・気持ちの問題に近いことだ。私たちは」
「その頼む立場ってのが納得いかねぇ。お前、ソフィとは幼馴染だったんだろ?ソフィはお前を慕ってた。一緒に冒険したことあるやつなら、全員知ってるくらいよくはなしてたからな」
「え?」
衝撃だった。ソフィが俺のことをそんな風にはなしていたなんて。
「その慕ってくれる友達がこんなことになってんだ。俺がお前の立場なら二つ返事で協力するはずだぜ。即答だろうよ。それなのに、お前からは戸惑いしか感じねぇ」
「それは」
図星だった。
ソフィに力を貸してくれと聞いた時、またよぎったのだ。
「なにもするな」というあの言葉が。
3年も経っているのに、結局あの時から俺は何も変わっていない。
情けない話だ。
ザックは話を続ける。
「ソフィから聞いてるぜ。信じていたのに見捨てられたってな。そんな奴に頼む必要あんのかよ。今までの冒険、ソフィの隣にいたのは、俺たちだ。苦楽をともにして、何度も死線を潜り抜けて、揺るがねぇ絆を築いてきた。その俺たちが無理なことが、なんでこのヘタレにできるってんだ。ミカエラ、お前が言うからここに来たが、やっぱ無駄足だったわ」
「貴様いい加減にしろ!状況が分かっているのか!」
ミカエラとザックが言い争っているが、その言葉は聞こえてこない。
先程のザックの言葉にひっかかるところがあったから。
クズなおれでも聞き逃せないところがあったから。
「ちょっとまてよ」
今までとは違う声色に、2人が言い合いをやめ、こちらを見た。
「確かにおれは、ソフィについていけなかった。あいつの邪魔ばっかしてきた。八つ当たりしてひどいことをいったこともあるクズだ。けどよ。こっちだってこの村でずっとソフィと一緒に勇者を目指してきたんだ。絆だったらこっちだって負けねぇ。あいつのためなら死ぬ覚悟だってできてんだ。やってやるよ。俺がソフィの目を覚まさせてやる」
ソフィとの絆を引き合いに出されて、黙っていられなくなる案外単純なレオであった。
突然の俺の変換に2人は呆気に取られたように聞いていた。
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「かつて最弱だった魔獣4匹は、最強の頂きまで上り詰めたので同窓会をするようです。」
も連載中なので、よければそちらもどうぞ。
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