『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品
冒険者ギルドのクエスト改革 ~とある受付嬢の憂鬱~
「はあ? 武器の使い方を教えろ?」
新人冒険者の相手は疲れる。実績も実力もないくせに要求だけは一人前。
「俺たち命懸けで戦ってんだぞ? 武器の扱い方くらい教えろや」
「甘えないでください。戦いながら学ぶものです」
「そんな無茶な……」
無茶ではありません。アナタたちの先輩は皆そうやって成長したんです。
「もし怪我したらどうすんだよ!! 補償は?」
「ギルドは慈善事業ではありません。怪我が嫌なら実力に見合ったクエスト受けてください」
分不相応に派手な仕事ばかり受けるから怪我をする。慣れるまで薬草採集のクエストでもやれば良いのに。
「もうすぐガキが生まれるんだが祝い金とかねえのかよ?」
「ありません。自由契約なんですから、お祝いでも休暇でも好きにすればいいじゃないですか」
やることだけはやってると。私には恋人すらいないのに。
「姉ちゃん仕事終わったら飯食おうぜ?」
「予定がありますので」
無いけどね!! めっちゃ暇だけどね!!
「失礼、お嬢さん今大丈夫ですか?」
うおお、めっちゃイケメン!! あ……この方Sランク冒険者のアベルさまだ!!
「は、はい!! 大丈夫です!!」
「お、おい姉ちゃん話はまだ終わって――――」
お前らにあってもこちらにはない。失せろ。
「冒険者の育成とフォローの充実ですか?」
「ああ、例えば武器の扱い方や魔法の講習とかをギルドがやれば冒険者のレベルも上がるし新人の死亡率も下げられると思う。ギルドも機会損失を減らせるし、稼働率も上がる」
たしかに一人前になれる新人は一割にも満たない。クエストの消化も滞っているし、最近冒険者のなり手が減ってきているのよね……。
「なるほど、たしかにそうですね」
「それから、せっかくギルド職員に魔法使える人材がいるんだから、怪我をしたときに優先的に回復魔法を受けられるようにしたらどうだろう? 働いてもらった方がギルドにとってもプラスだし、冒険者にとっても怪我を恐れずにクエストに臨めるようになって成長も早くなる」
「仰る通りです」
さすがSランク冒険者さま、説得力が違う。
「あとは扶養手当と育児休暇、それから住居斡旋かな。働く環境が良くなれば自然と優秀な人材が集まって冒険者という職業のステータスも上がるし、町の人口が増えれば経済が活性化して結果的にギルドの仕事も増加する」
「すぐに上司に進言します」
「聞いてくれてありがとう。ところで仕事が終わったらお食事でも?」
「喜んで」
「「「おい!?」」」
イケメンは正義ですが、やはり何かを通すには説得力がなければ難しいですよね。
同じことを言っていても、自分のことしか考えていないのと全体の利益を考えての発言とでは受け取る印象が全然違ったりします(´艸`*)