⑨ 謀り事
「姐さん! 余り無茶しないで下さい! 茜さんを引き取るおつもりなんでしょ?!」
と、悠さんから窘められてしまった。
でも、悠さんのワンピの肩口の裂け目の下の皮膚が赤黒く変色しているのが目に入ると、怒りに手が震える。
そんな私に悠さんは薄くため息をついた。
「ホント!姐さんは……私の為に怒っていただかなくても大丈夫です。この程度の打撲はどうって事ないのです。もちろん、一時的には腫れますが、すぐに引きますし、痛みにも慣れています。それに叔父は何の理由もなく、あんな事はしません。叔父は私の弱い心にムチ打ったのです。
私は自分をわざと大河内に襲わせたのですが、殴られた瞬間、あのカチコミで凌辱された時の事がフラッシュバックしたのです。いつもなら次の瞬間にはフラッシュバックを振り捨てて冷静に対処するのですが、さっきはあなたが私の腕を取ってくれた……その“救いの手”に私は流されてしまって結果的にはあなたを巻き込んしまった。
だから叔父は『カタギに手ぇ出させるとはどういう料簡や!!』と私を叱ったのです。
私は必要とあれば自分の“女”を使います。
そう!あの復讐を果たした時も……オトコは私の上に乗っかっていましたから……
自分の“女”を使うのはとても危険な事です。だからこそ、竦んだり迷ったりしてはいけないのです。」
ふとした表情にまだ少女の面影を残している悠さんの口からこんな言葉を聞いて私は本当に悲しかった。
悠さんにもそれが伝わってしまって
「叔父が今の姐さんを見たら『鬼子母神の目にも涙』って言いそうです」と冗談に逃げられてしまった。
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「私の事は、どうかお気になさらずに。今回の『シノギ』は私が絵図を描いたのですから……」
こう前置きして悠さんはZ●●mのミーティングに私を同席させた。
画面の向こうはカチッとしたスーツの女性で“キャリア”のニオイがプンプンとした。
この女性、開口一番こう言った。
「富太郎氏に言っておいて下さい。『姦しいのがお好きなら当方の調査員がいつでも参ります、概ね100名程』と」
いったいこの人は誰??
思わず、悠さん横顔を見ると悠さんは視線を変えずに呟いた。
「この方は国税の査察官で大橋海凪さん。『ナサケ』つまり内偵がご担当で……私が描いた絵図と利害が一致したので、今回は相互協力の間柄なんです。
こちらは且尾柾子さん。大河内の暴行の被害者のご家族です」
お互いの挨拶の済んで姦しくも無いミーティングに突入したが、その内容をかいつまんで列記する。
〇 大河内嗣治の動向 : 明日からタイの工場へ視察に行き、少なくとも6月19日までは帰国しない。東南アジアへの外遊は、工場視察が主目的では無く、ヤツ個人の“趣味趣向”を満足させるのが本当の目的。ゆえに帰国後しばらくは趣味には走らない。
〇 今回の主目的は大河内ハムの株主総会で大河内嗣治専務の解任緊急提案する事。
(自らが社長を務める関連子会社大河内ハムマーケティング㈱の売掛金横領と㈱フードピュアクリーン製造のシュウマイにおける異物混入事件の隠蔽の引責として)
〇 『金町経済経営塾』の目論見は大河内ハム株の暴落とライバル企業の日の丸ハム株の高騰
〇 査察部の目的は大河内ハムグループの不正資金の解明と脱税の摘発。
現在、キーとなる銀行口座を特定。嗣治がこの口座から個人使用の為に現金を引き出せば相関関係を立証できる。
〇 中村悠の目的 『金町経済経営塾』の目論見を達成すべく、株主総会緊急提案時に開示する証拠として、嗣治の犯罪行為(暴行及び淫行)とその隠蔽工作を捉えた映像を取得する。
これらの目的達成の為、悠さんは大河内嗣治に自らを襲わせようとした。
その作戦の元となった情報は嗣治を張っていた“大橋さんのグループ”からもたらされた物で、彼らはマンションの隠れ家から逃げ出したあーちゃんを目撃していたのだ。
「どうして助けていただけなかったんですか?! まだ年端もいかない子なのに!!」
私は画面の向こうの大橋さんに食って掛かったが
『自ら蛇の穴に飛び込んだ者に一概に手を差し伸べる事は出来ない』と返された。
『それより、大河内嗣治に社会的な死を与える方が現実的だ』
こう言われて、私は画面の向こうへ怒鳴った。
「いったいあなたは何を言ってるんですか?! あなた!それでも女ですか?」
しかし大橋さんは顔色一つ変えない。
『女を振りかざすこの手の会話は正直苦手だ! 私は女だし、必要とあればそれを行使する。それだけの事、なにせ私は“ザアカイ”だからな。そこに居る悠だってそうするだろう』
横に座っている悠は目を伏せ、逡巡の後、私に懇願した。
「この期に及んでは、もう他に方法がございません! あなたの“お子さん”……茜さんのお力をお借りできませんか? 私は、復讐を果たした時に、自分が凌辱された事によって受けたPTSDから逃れる事ができました。これは茜さんにとってもチャンスです」
「そんな!! それはあなたの都合!!……」
「はい! その通りです。でも病院では決して勧めはしないPTSDの治療方法だと私自身が実感したのは事実です。 茜さんには音声データーの提供とお姿とお顔の写真を撮らせていただくだけで結構です。ウチのスタッフがフェイク動画を作り、それをエサにしてアイツを釣り上げ、必ず社会的に死に至らしめます!!」
私は深いため息を付いた。
「私は絶対反対です!! でもPTSDの当事者は茜です。茜と話してやってください」
私は茜に電話を掛け、事情を話してスマホを“スピーカーON”にして悠さんに渡した。
悠さんは子供騙しの様な事はひと言も言わず、ただ真摯に自分の過去と現在の状況と依頼の内容を茜に説明した。
「分かった! 1つだけ条件がある。真央もこのリベンシに参加させてやって! 私の事を信頼し必要とするのなら!」
悠さんと私は筆談した。
『真央は信用できる?』
『あの子は、根はいい子! 最近では二人共面倒を見てあげたいと思ってしまうくらい。だから、茜の希望を私は叶えてあげたい』
悠さんはスマホに語り掛けた。
「真央さんも同席して構わない」
「ありがとう!! もう時間がないんでしょ! すぐにでもその“SFXスーパーバイザー”さんを私達の所へ寄こして」
こうして私達は、大河内嗣治を“抹殺”すべく動き出した。
またまた時間切れ!!
明日で完結できるかしら……
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