⑦ 子を抱き女豹となる
「ワタシは怖かったんだ! 大河内の性癖は、タクヤが『あの方の“好み”は大変!』と愚痴ってたことがあるからサ 『誰も居なかったらお前が行け!!』って言われて……逃げたいって思ったけど、逃げたらタクヤと切れちゃうし……」
だからって仲間を売るのか?!! と私は物凄く腹が立ったが“あーちゃん”はスッと手を伸ばした。
「マーちゃん、手錠の鍵貸して!」
「あーちゃん!!」
「優しいマーちゃんがこんな事するの、良くないよ。お願い! 鍵を貸して!!」
私は決して優しい人間なんかじゃない! 今だって心の中は猛り狂っている。
だって!! あーちゃんの顔は今も痛々しく腫れているのに……病院にも行けないのだ!! なのにコイ真央は!! そんなあーちゃんの弱みに付け込んだ!!
だから、口を結んで首を横に振った。
「手錠外したら、何をするか分からない!!」
私の言葉に不貞腐れたように顔を伏せた真央を、あろうことかあーちゃんは抱きしめた。
「私だって、真央と似たようなもんだよ! だから、『何をするか分からない』って私に言われている様に思える……もし、私が、逆の立場だったら、私も真央を“売った”と思う! だから、マーちゃんが私の事を信用してくれるのなら真央の手錠を外してあげて!」
私は逡巡した。怒りで狂っている私が、そもそも冷静でいられる訳は無い。
そしたら、あーちゃんは真央を抱きしめている手を緩めて、いきなり自分の両目に、両手の指先を突っ込んだ。
「!!」
声にならない声を私が上げた次の瞬間、あーちゃんは“地の瞳の色”を私に見せた。
「どうかどうか、心からお願いします」と頭を下げながら流したあーちゃんの涙が私の狂った怒りを冷ました。
私は真央の頭をクシャクシャと撫でて、あーちゃんに手錠の鍵を渡した。
「どうせ住むところも『テキトー』なんだったら、しばらくはここに居なさい! あーちゃん!アンタ達若い子の『お着換え』事情は分かんないから二人で相談してお洋服選んで、私のスマホの『買い物かご』に入れておきなさい」
「いいの?」
「この間、お買い物行けなかったでしょ? その代わりにネット購入しなさい。アウターとか……真央と共用できそうなものは、そうしてね! 私、ご飯支度するからアンタ達はお風呂とかしちゃいなさいよ!」
彼女達に背を向け、キッチンに立つ。
何て事だ!つい数日前までは三十路オンナの寂しい部屋だったのに、今は若い子達の“キャピキャピ”した声が響いている。
そして、いつの間にか鼻歌を唄いながら料理をしている私が居た。
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「今日も真央と手錠で繋がっているよ」
私が仕事に行っている間、あーちゃんは自分の片手と真央の片手に手錠を掛け、私に鍵を預けていた。
この手錠は通販で買ったとは言え、250kgの引っ張り強度に耐える高強度タイプ。繋がれた手と手を分離させる事はまずできない。
傍から見れば完全に虐待の類だが、当の二人は「どーせ家の中だから」と半分遊び感覚で“不自由”を楽しんでいた。
しかし今日はそうもいかない。万一、私の身に何かあったら大変な事になる。
「今日はしなくていいわ! それよりアンタ達も気を付けて! 一日経っても私から何の連絡も無かったら自分達の身は自分達で守って!」
そう二人に言い残して私は家を出た。
真央やあーちゃんが……私の事を裏切ったとしても、それはそれで仕方ないと思う。
彼女達が生き延びる事が最善なのだから。
私がこれから向かうのは『大河内ハム』の御曹司である大河内嗣治の“隠れ家”
コイツこそがあーちゃんに暴行を加えた張本人で“隠れ家のマンション”はその現場だ。
真央の“オトコ”だったタクヤの動向から今日あたり、“暴行”の新たな犠牲者が出ると踏んでいた私はマンションの駐車場に潜んで、ひたすら奴らを待った。
バーガンディレッドメタリックの車体に『シュトゥットガルトの跳ね馬のエンブレム』がピカピカに光る4ドアハッチバックの車が駐車場に入ってきて、食肉ジャーナルの誌上で見た……シルバーのメタルフレームのメガネで細面の顔の男が車を下りて来た。
そして、こいつがカッコつけて助手席のドアを開けると、中から白のサンダルが覗いた。
どうする? きっと近くにタクヤも居るはず、あの背丈なら私の手は十分首に届くから……ヤツが大河内と落ち合ったら背後からスタンガンをお見舞いしよう。
大河内には……土嚢をぶっ叩いて扱いを練習したこの特殊警棒で叩きのめしてやる。
防刃チューブトップに防刃の黒ロンT、下はブラックロングジョーンズという黒の防刃パンツを履いている私は目出し帽を被り、完璧ないでたちで大河内との距離を詰めて行った
大河内の後を青のワンピースに白の長めのカーディガンの若い女性の白いサンダルが追って行く。
きっとこの子が今日の犠牲者だ……
先にこの子を逃がさねば
そう思った矢先、何の前触れも無く大河内が振り返ってその子を殴り、薄暗い駐車場でもはっきり分かる位血しぶきが飛んだ。
向こうから慌ただしくやって来るのはタクヤに違いない。
もう考える間も無く私は!! 女の子に覆いかぶさっている大河内に体当たりをし、真央の時と前と同じ様に、引き摺る様にその子の腕を掴んで駆け出した。
どの位走っただろう……
どこかのビルの物陰に腰を下ろし、ぜいぜいと肩で息を付きながら女の子を見ると、彼女は息を弾ませる事も無く、ただ苦い顔で……けたたましくなっている自分のスマホをタップした。
『ワレ!何考えとるんじゃ!』
ずっしりと重くドスの効いた声がその子のスマホから流れ出した。
。。。。。。。。。
イラストです。
今回は“真央”
表情固い(^^;)
うう、時間切れ!!
以後は明日<m(__)m>
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