表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女はあざとくカッコよく  作者: 黒楓
5/10

⑤ コンソメスープ

なるだけ優しいお話になる様に、前作をかなり直しました。

 コクコク


 眠りの中で……

 腫れ上がって物を噛むこともできないクセして、唇と舌が、こんな風に動いていた。



 マサ子さんの腕の中で私は目が覚めた。


 夢で見るほどの意識すらなく、私はマサ子さんの温かい胸の感覚だけで幼子に戻り、()()()()()()()()()()様だ。


 そんな自分が恥ずかしくて……薄く開けた眼をまた閉じてしまったけど、顔はマサ子さんの胸に埋めたままだ。


『今はまだこうしていたい』


 そう願っても、意識を取り戻した私の頭の中にはみるみるうちに暗雲が立ち込める。


 オトコが怖い!!

 心の底から!!カラダの底から!!


 でも、この国では()()()()()()()()()()の……果てしなく生きづらい私にとって……『この身を売る』以外に生きるすべはあるのか??



 今持っているお金を使い果たしたら……

 捕まるまで万引きを繰り返して、一日一日を繋いでいくしかないのかな……



 悲しい!!悔しい!!


 自分の命を育む為に働く事ができたら

 どんなに幸せだろう!!


 でも私は身元不明の年端も行かないバカで……“不良ガイジン”だから


 雇ってくれるところなんてどこにも無い。


 頭の中を覆い尽くした暗雲は私に涙の夕立を降らせ始めたので、私はマサ子さんの胸を離れ、着ているシャツに顔を埋めた。



 本当は盗みなんてしたくない!!

 したくないけど!!


 今日これから

 私は()()盗みをやる。


 裏切り者として

 マサ子さんから

 憎まれなければならないから


 私と一緒に居れば

 マサ子さんに迷惑がかかる。


 だって私は


 LawbreakerでForeignerでLowteen


 その存在は最悪な災厄




 私はシャツの裾を顔に当てたままそっとベッドを抜け出し

 このあいだの“家探し”で見当をつけて置いた物を次々とをリュックに詰めた。


 後はずらかるだけ!!


 パンパンになったリュックを背負い、玄関に置いてあるスニーカーに手を掛けると


「えっ?!」


 何かメモが入っている……

 スマホの画面で照らしてみた



『出て行かないで!! 欲しいものはみんなあげるから』



 思わず指に力がこもって

 メモの端っこがギューッとなってしまう。


 と、後ろから

 ふわっと毛布が掛けられて


 跪いたマサ子さんに私は抱きしめられる。



 もう、我慢できなくなって

 私、マサ子さんの胸の中で“赤ん坊の泣き声”を上げた。



 いっぱい迷惑かけるよ……きっと


「いいよ」


 盗みだってしたよ……


「うん、一番最初に盗まれたのは心だった……

 だからね!

 大好きだよ『茜』

 大好きだよ『MATHILDE』」


 私の涙の雨に胸を濡らされながら、マサ子さんは私にキスの雨を降らせてくれた。



 --------------------------------------------------------------------


 力尽きた私はいつの間にかマサ子さんの胸の中で寝入ってしまった様だ。


 そっと目を開けると私はベッドのお布団の中で……マサ子さんが覗き込んでくれていた。


「お顔のガーゼとか取り替えようか?」


 私が頷くと「これはヤケド用の物だけど」と言いながらマサ子さんは薬の染みているガーゼを取り替えてくれた。


「きれいなお顔に何かあったら大変だから、明日は病院に行きましょう!お金の事とか何も心配しなくていいからね」


「……でも、私……今、自分の保険がどうなっているのかも分からないの」


「心配しないで! 例え実費の倍掛かったって構わないし、きちんと手続きすれば返金はされるから。そんな事は私に任せて、あなたはキズを治す事だけ考えて!!」



『こんなにもマサ子さんに甘えていいのだろうか?』


 私の頭にこの言葉が過るたびに、マサ子さんは私を抱いて頭を撫でてくれた。「心配ないよ」って。


 だから私は、今の私にできる精一杯のお返しをしようと思った。


「マサ子さん……」


「『マーちゃん』って呼んでくれたら嬉しいな」


 私はちょっと照れながら、その名前を口にする。


「マーちゃん!リュックの中の 缶のコンソメ あげるから 飲んでみて」



 その白地に金色の帯のコンソメ缶は

 私の乏しい()()()の中では宝物だった。


 それは母さんとのほとんど最後の思い出


 ある昼下がりの食卓……


 ()られるだけの後妻の連れ子と……

 その家のお嬢様とが

 同じテーブルで同じように食べた

 唯一のもの……


 コンソメスープのお皿を前にした、ほんのひと時だったけれど……私は“人”として認識され、そのささやかな幸福はコンソメスープの味と共に私の記憶に織り込まれた。


 だから私は、その記憶を温め直したい時の為に、デパートで見つけたこのコンソメ缶をリュックに忍ばせていた。


「マーちゃんには普通の缶コンソメかもしれないけど、私にとって幸せを感じる事のできる味なの。だからマーちゃんにあげたい。こんなので恥ずかしいけど……」


 これだけじゃ分からないだろうと詳しい事情をマーちゃんに話したら、マーちゃんは涙ぐんでまた私を抱いてくれた。



 --------------------------------------------------------------------


 電子レンジのドアを開けるとコンソメスープの香りが広がった。


 マーちゃんは小ぶりの丸いスプーンとカップを手にこちらへやって来る。



「一緒に飲むのが一番の幸せだから」


 マーちゃんはカップの中のコンソメスープを小さなスプーンでひとさじすくって

 ふうふう吹いて

 私のくちびるにそっと当てた。

 そして

 私の口に滲みこむ速度に合わせてスプーンを傾けてくれる。


 ベッドの上での『お食事』なんて!!

 私には記憶が無い!


 たったカップ1杯のスープでも……こうして二人で飲む幸せな時はゆっくりと過ぎて……


 私は自分がこの上ない慈愛と幸せに包まれている事を全身で感じた。




 。。。。。。。。。



 イラストです。



 今回はマーちゃん





挿絵(By みてみん)


前作は、この辺りで終了。


次週から新しく書き起こしとなります(*^。^*)



ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ