③ オンナはこの世の奴隷なのか…
“茜” 視点です。
まだパジャマ姿のマサ子さんからクリーニングの引換票を貰って、私はカノジョの部屋を出た。
「ついでの用事済ませたら戻るね」
とカノジョには言ったけど、もう戻らない。
昨晩、私はマサ子さんを看病した。
夜中に彼女がうなされた時にはカノジョの手を握り、枕元で子守唄を歌った。
遠い昔、母さんが私に歌ってくれた唄を。
歌いながら私は、程度の違いこそあれ“独り”を抱え込んで生きているのは決して私だけではない事を噛みしめた。
だから、たった数時間だけでしか無いけれども、この人の支えになろうと思った。
でも今朝……目を覚ましたマサ子さんを見て、もう大丈夫だと思えた。
ならばここを立ち去らねばならない。
私の身の上は間違いなくマサ子さんに迷惑を掛けてしまうから。
さあ!あと1時間で約束の時間だ!
“安住の地”の為にバリバリ稼がなくては!!
多機能トイレの中で、“クリーニングした制服”に大急ぎで着替え、私は指示されたマンションへ向かった。
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スマホの“ナビアプリ”で連れて来られたのは、まるでホテルの様なエントランスの高級マンションだった。
ちょうど帰宅時間なのだろう。
制服の子が他にも居てエレベーターで乗り合わせると、向こうから「こんにちは!」と声を掛けられた。
『ああ、あの子は自分の家へ、私は他人の家へ向かうんだ』
その言葉が私の心の古傷に沁みた。
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自宅へ帰って来たばかりだったのか……“客”は小ざっぱりとしたスーツに身を包み、玄関の靴もピカピカに磨き上げられていた。
まだ若いせいか、どちらかと言えば線が細くシルバーのメタルフレームのメガネは理知的で少し神経質っぽい感じがした。
そいつが恐る恐る言う。
「あの、少しSMっぽいの、大丈夫ですか?」
「えっ??」
「OKしてくれたらギャラはお約束の2倍、お支払いします」
私は、頭の中で大急ぎで悩んだ。
お金は欲しい、いや、凄く必要!!
稼ぎの“ノルマ”をまだ達成していないし、“ヤドカリ物件”も押さえていない現状では、ネカフェ代もかさみ、出費が増すばかりだ。
元から条件のよかったギャラの更に“倍”なら……
頷くと、男は腰の財布から札を数えて渡してくれた。
「先にカバンにしまえば。 待っているから」
こんなことまで言ってくれた。
今までの経験からすれば、割と楽なパターンだ。
カバンのジッパーを閉じながらほくそ笑む。
それでも念の為に「音声検知自動録音機能」の付いたペン型ボイスレコーダーを立ち上げた。
「いいかな? じゃあ、まずはそれらしいメイクをしよう」
にこやかに近づいてきた男を見上げたその瞬間、私は顔に物凄い衝撃を受けて床に叩き付けられた。
私を殴った男の拳には金属がはめられていて、べったりと血糊がくっ付いている。
殴られた私の顔は鼻血で真っ赤に染まり、口の中もザックリ切れている。
「あ~あ、さっそく床、汚しやがって」
さっきとはまるで違う声色、
そして、顔が床にくっついた状態だから見える誰か別の人間の足……
はめられた!!
私は飛び起きてドアの方へ走るが、男二人の手によって取り押さえられてしまう。
それでも私は、手当たり次第に噛んでやろうと歯を剝き出し威嚇しながら叫んだ。
「未成年にこんな事をしてタダで済むと思うの!!」
「もちろん、思ってるよ。お前はどうする事もできない…」
と言い終わる前に、拳の金属の塊が再び私の顔にめりこむ。
「抵抗すると次は歯を折るぞ」
。。。。。
もう後は入れ替わり立ち替わり
ヤられた。
更に男は……
私の上に乗っかりながら耳元に毒を流し込んだ。
「お前が“なにもできないヤツ”だって事をオレに教えてくれた女が居る! 恨むんならソイツを恨みな」
ああ
誰だかわかった!!
児童養護施設で一緒だったヤツ!
私にカネの味を覚えさせた
あのオンナだ!!
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もう、なんの感覚も無いのは
本能から来る“シャットダウン”なのか
あちこちから
色んな物が流れ出ていて
ボロボロで
床に転がされている私……
剝き出しになって“ベタベタ”のお腹の上に
「ああ、まずかった。こんな幼いだけの“棒”みたいなオンナはやっぱダメだ!!」
と男二人からツバを吐かれた。
それでも、気を失ったフリをして床に聞き耳を立て
ヤツらが遠ざかったのを確かめて
今のあらん限りの力を振り絞って
部屋から逃げ出た。
誰も信用できない
誰も信用できない
誰も信用できない
それでも、この現状を
何とかしなくてはいけないから
もう戻るつもりの無かったマサ子さんの部屋のインターホンを押した。
1押しでドアが開いて
私を見たマサ子さんは叫び声を上げ
私を抱きしめて狂い泣いた。
私はカノジョの肩越しに
カノジョが廊下に作っていた
毛布の“蓑”の
ぽっかり空いた這い出し穴を
ぼんやりと眺めていた……
本当にどうしようもない一節で、言うのもためらってしまいますが…
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