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課長にクビと言われた日、部屋の小窓が異世界につながった!~牢獄の王子と共にお食事を~【完結】  作者: 中西徹


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エピローグ

事情聴取のため警察に向かった先で聞いたのは槙田課長が犯行におよんだ動機だった。


槙田課長は、私が下についた頃に、奥さんから離婚を前提にした別居を言い渡されていて荒れていたそうだ。


離婚したくない課長と、離婚したい奥さんの主張で離婚協議は長引き、子どもも奥さんに父親の悪いところを吹き込まれていて、時々訪れる子どもとの面会の時間では子どもからののしられてもいたそうだ。


そんなことが続き、槙田課長は部下に当たり散らすようになっていってしまったそうだ。


相手が私だったのは、たまたま若いころの奥さんとタイプが似ていたからだったらしい。


離婚協議が始まってから、槙田課長はより一層仕事に打ち込むようになっていた。


仕事をこなし、給料を稼ぐことで、家族も帰ってきてくれると信じていたそうだ。


それなのに、仕事に打ち込めば打ち込むほど、奥さんたちからは変わっていない。


何もわかっていないとなじられ、早急に離婚をと求められ、どんどん追いつめられていっていったらしい。


本来の槙田課長を知っている人は、もともと厳しい人だったが、パワハラをするような人には見えなかったと言っている。


時折、離婚協議のために奥さんと会っては、離婚を撤回してもらおうと奥さんの指定する高いレストランに足を運ぶが、そこでは奥さんは食事を楽しむばかりで決して離婚の撤回はしなかったそうだ。


自分の金を使って高い飯を豚みたいに食べる姿がたまらなかった、と槙田課長は警察に供述している。




「そんなこと、七瀬さんとは関係ないのにね」


同じ課の先輩が笑って言った。


私への暴行事件として逮捕された槙田課長は、今は社内での恰好の噂の的だ。


もちろん、私もなのだが。


「そうですよね」


先輩に応じるように応えた。


槙田課長は逮捕後、会社から正式に解雇となった。


今、私は、今までと同じ課で働いている。


事件の被害者として一時的に噂になっていたが、おおむね同情的な内容だったのでどうにか働いていけている。


今まで無視されていた私は、事件をきっかけに無視されていたことを軽く謝られ、ランチに誘われるようになってきた。


槙田課長に襲われた顛末を聞きたいという野次馬根性から来てはいるのだろうが、無視されなくなり、仕事がスムーズに進むようになったのはありがたい。


「七瀬さん、今日一緒に飲みにいきません?」


私がパワハラを受けていたころは、腫れもののように触れず、声もかけられることもなかったが、あの事件以来話を聞きたがる同僚に食事や飲みに頻繁に誘われるようになった。


「ごめんなさい。今日は用があるので、また誘ってください」


会社は、相変わらず早朝出勤はあるし残業も多い。


朝起きると憂鬱で、会社に行きたくない日があることなんてしょっちゅうだ。


けれど、上司が変わって以降、物理的にも心理的にも負担は減った。


そのおかげで、金曜の午後七時には会社を出られるのだ。ありがたい。


この時間帯なら、近所のスーパーの閉店時間に間に合いそうだ。


会社を後にし、電車に乗りながらスマホをいじりレシピサイト巡りをする。


一度はアーサーを拒絶した形になってしまったが、彼は相変わらず私の料理を期待して週に二度、午後五時のチャイムがなってからの数時間ご飯を共にしてくれている。


王としての業務は忙しいようで、あちらも牢にいた頃とは異なり目が回るような忙しさのようだ。


そんな中で、私の世界と繋がる魔法陣がある牢を第二の自室として改装し保存して、私との食事の時間を確保してくれていて、週末の楽しみになっている。


土日のアーサーとの夕食のために献立を見繕い、買い出しを行うのが習慣になりつつあった。


時には凝ったものを作って、時には料理を失敗して、時には疲れてデリバリーを頼んで。


そのどのときの料理もアーサーと共に楽しく食べた。


私たちをつなぐ小窓は小さくて、お互いの世界に行き来することはできず。


繋がっている時間は短くて、語り合うには十分とはいえなかった。


けれど、決められた範囲で、決められた時間にのみ繋がるアーサーとの交流は、確実に私を幸福へと導いていく。


「アーサーと出会わせてくれてありがとうございました」


買い物を終わらせ、立ち寄った神社に稲荷寿司を備えて柏手を打つ。


神社から出ていくときに通った鳥居の狐が、コンと鳴いたような気がした。



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