74 『戦闘開始』
二人の友人は、なぜこんなところにいるのか不明だった。
だが、気まぐれに遊びに来たような雰囲気である。
イストリア王国中を観光すると言っていた二人だから、たまたま観光地に選んだだけに過ぎないと思われる。
そんな二人は、レオーネとロメオと同い年で、つい最近知り合ったばかりの晴和人の男女だった。
アキとエミである。
サンバイザーがトレードマークの自由な二人組で、イストリア王国各地を観光している間、ロマンスジーノ城を拠点に生活している。たびたび城を空けて数日帰ってこないなんてこともあるが、今もどこかへ行っている期間だった。今朝も見ていない。
それが帰ってきたらしい。
「なんだあれー!」
「なんのモンスター!?」
びっくり仰天のアキとエミに、レオーネが声をかける。
「二人共、危ないから近寄らないで」
「あ、レオーネくんとロメオくんじゃないか!」
「レオーネくんとロメオくんも危ないよー? こっちにおいでよー」
エミに手招きされるが、はいそうですかと言うわけにもいかない。アキとエミの強さや隠し持っている能力など、わからないことも多い。だが、なぜだか、こんな状況だからか、彼ら二人に頼ってみようと思った。唐突に現れた二人に、レオーネはお願いすることにした。
「あの二人をここから遠ざけてやってくれ。それから、観光客の老夫婦も。オレとロメオが戦う」
「頼む」
ロメオにも言われて、アキとエミは顔を見合わせ、力強くうなずいた。
「わかったよ!」
「こっちは任せて!」
「絶対勝ってね! 《ブイサイン》」
「気をつけてね! 《ピースサイン》」
アキとエミが必勝祈願と安全祈願をしてくれる。
「グラッチェ」
「ありがとう」
レオーネとロメオも礼を言って、『大気の王』と向き合った。
「さて。あとはやるしかないな。相棒」
ロメオはゴーグルに手をかけ、装着した。
《魔法透過》が発動する。
これで、魔法の効果をすり抜けることができる。『大気の王』にも効果があるかはわからないが、戦闘準備はこれだけしかない。
「もちろんだ。二人で止める」
今回、アキとエミは、物語を変えるつもりはないらしい。『トリックスター』と呼ばれる二人は、ただ危険な状態にあるドメニコとジュストを助けてくれた。観光客の老夫婦も含めて四人をこの場から遠ざけて、勝利と安全を祈ってくれた。
ここまでされたら、レオーネとロメオがするべきことは、ただ『大気の王』を倒すだけだ。
『大気の王』の注意を引くためにも、ロメオが近づいて行き、撹乱を試みる。
殴りかかられても、持ち前の反射神経で避ける。
それを何度か繰り返すが、『大気の王』が暴れてレオーネにまで攻撃の手が及ぶ。レオーネはサッと飛んで離れるが、攻撃は続けざまにきた。もう一方の拳もレオーネに振り抜かれた。
「相当動けるな」
とつぶやき、レオーネは苦笑を漏らした。
このままでは、拳がレオーネにヒットする。
しかし、拳はいなされた。
レオーネの上着の袖が拳を軽やかに叩き、レオーネがうまく方向転換して避けたのである。
「《ファブリックアームズ》。オレのこの上着は、腕が武器になる。自在に動く構造になっているんだ。これを使わせるなんて、かなりの苦戦を強いられそうだ」
いなされた拳は空振り、遺跡を破壊した。破片が散らばる。その破片をも、レオーネの上着の腕が弾き飛ばした。
普段レオーネが肩にかけている上着は、勝手に動く。魔法の力で上着自らが考えて動くように仕掛けられており、腕が手刀を繰り出すように遺跡の破片を壊し、レオーネには傷一つつかない。
アキとエミがレオーネとロメオ以外の者をこの場から遠ざけてくれたとみて、レオーネが言った。
「いいぜ、ロメオ。そろそろ攻略開始だ」
「了解」
ロメオは直接攻撃を仕掛けに行く。
「《打ち消す拳》」
魔法効果を打ち消す拳である。
これを巨大な王の足に打ち込む。
だが、なんの効果もなかった。普通の魔力体へこの攻撃をした場合、魔力で覆っていたものを剥がしたり破壊したりできる。
それなのに、魔力によってできていると思われた『大気の王』には、ただのパンチにしかならない。
「おそらく、魔力体であろうと生物として一つの身体になっているからだ。微生物の介入により、魔法を扱える一生物になったんだ。もしその理由で攻撃が通じなかったとすると、オレの予想では、相手の攻撃もすり抜けられない」
レオーネが推論を述べる。
同時に、ロメオは『大気の王』から繰り出された拳を腕の防御で受けた。
後方に数メートル、宙を舞いながら飛ばされる。
腕には激痛が走った。
「っ……」
痛みに顔をゆがめ、ロメオはそれでもしなやかに着地する。
「ロメオ」
レオーネがカードを投げた。
カードはロメオの腕に吸収され、痛みが引いていく。
「骨折までは治らないが、痛みはなくなる。補強もされた状態だ。やれるか?」
ロメオは小さく微笑んだ。
「当然だ」




