71 『一対一』
「これはこの昌露雁須斗に与えられし使命だ。事件じゃない。事業だ。幕など引かせない」
腰の剣を抜いたカリストに、レオーネが反応した。
レオーネの指から、カードが投げられた。
慎重にも、カリストは後ろに下がってカードを避けた。
「なにをされるかわかったものではないからな。避けるに限る」
今度は背後へと顔を半分だけ向けて、
「だが、こちらは、受けるのもいとわない」
ロメオがカリストの背後から飛びかかり、殴りかかった。
しかしカリストはそれを読んでいたらしい。剣で拳を迎え撃つ。ロメオの硬い拳がカリストの剣とぶつかった。
「レオーネとロメオ。二人が別々に動いても、近くにいることは絶対だ。当然、ずっと隙をうかがっていると思ったさ」
「やりますね」
距離を取り、ロメオが構えたままつぶやく。
ジュストが遅れて現れて、レオーネとロメオに言った。
「おまえら、ここまでわかって尾行してたのか。相談しろよ。チームだろ」
「すまない」
素直に謝るロメオに、ジュストはくっと笑った。
「謝るな。わかってるさ、本当はわかってた。おまえらはボクを危険な目に遭わせないためにそうした。だろ?」
「ああ」
「手を貸すか?」
カリストを一瞥してそう言ったジュストに、ロメオは首を振った。
「大丈夫だ。ワタシ一人でいい」
「気を抜くなよ」
顎を引き、ロメオはカリストと向かい合う。
「まさかもう一人いるとは思わなかったが、関係ない。邪魔をするなら、全員始末させてもらう」
「来い」
静かにロメオが言った。
そして、ロメオとカリストの戦いが始まった。
攻撃の手は互いに早く、素手のロメオがリーチの分やや不利だが、鍛え抜かれた鋼の身体と鋭い動きで、武器を持つカリストに一歩もひけを取らない。
振り落とされる剣を避けて拳を突き出し、カリストにダメージを負わせる。
逆にカリストの攻撃はうまく払って、余分な動きもなく捌いてゆく。
力量差はハッキリしていた。
やがて、剣撃が鈍った瞬間に、ロメオがカリストの懐に飛び込み、拳を叩き込んだ。
「ぐらぁああ!」
口から血を吐き出して、カリストが倒れる。
そこに、レオーネがカードを投げた。
今度は避けられなかった。カードが的中する。
カリストは身体を起こそうとして、異変を感じ取る。身体を起こせない。いや、わずかだが、動いてはいるだろうか。ただし、ものすごくゆっくりとした動きである。
「な、なんだ、これは……」
しゃべりまで遅い。しゃべりが遅いと声が変わったようにも聞こえる。
「《スロウスロー》。投げたカードに当たると、動きが遅くなる。二分の一、つまり半分のスピードです。一秒で繰り出せた剣も、同じ動きに二秒かかることになります。その間に捕縛させてもらいますね」
「く、くそう……」
レオーネが次のカードを投げると、カリストは後ろ手で縛られた状態になる。
「お疲れ。ロメオ」
「これで終わりだな、レオーネ」
戦いが終わった。
『大気の子供』のモンスター化を引き起こした犯人を、ようやく舞台に引っ張り出し、捕らえられたのだった。
だが、まだすべての解決とは言えない。
ここで、ジュストが険しい剣幕でカリストに歩み寄った。




