68 『レオーネの推理』
ドメニコが、周囲を見回す。
ポケットから取り出した黄色と黒色の縞模様のカプセルを手に、なにか機をうかがっているようである。
ロメオはじっと観察していたが、ドメニコがカプセルを放ったのを確認できた。
宙に放たれたカプセルは、どこにもぶつかることなく、弧を描く途中で割れた。なんら外的要因を持たずに時間制で割れたかのような印象だった。
カプセルからなにかが出ているのは確実だ。そのためのカプセルなのだ。しかし、ロメオの目にはなにも映らない。なにもわからなかった。
――あれは、なんだ……。
その気持ちはジュストも同じらしく、二人がこれから起こることを見逃さないように見守る。
そんな中、レオーネが舞台の上に現れた。
古代マノーラ広場における、演説の舞台である。そこに降り立った。
本来、舞台の上にまで立つことは、遺跡保護の観点からは禁止されている。
しかしレオーネはそんなことは気にもしない。なにか破損があったとしても、自らの魔法のいずれかを使えれば直せるからである。マノーラ騎士団さえ歴史を守るために侵入は許されていないが、そのマノーラ騎士団にレオーネとロメオは特別許可を受けていた。二人がこのマノーラで立ち入ってはならない場所などない。
突然のレオーネの登場に、ドメニコはいぶかしむ目を向けた。
「なんだ。貴様」
「こんにちは、ドメニコさん。私は『ASTRA』、振作令央音と申します」
ロメオの隣では、ジュストが「あいつ、勝手に動きやがってっ」と小声で悪態をつき、身を乗り出そうとしている。
「落ち着け、ジュスト。レオーネがあんな行動に出るからには、なにかあるんだ。レオーネにはなにかが見えたのかもしれない」
「そうだな。だが、ロメオは知っていたのか? レオーネがなにかすることを」
「詳しくは話してもらってない。ただ、解決すると言っていた。ワタシはいざとなったときに戦うだけだ」
「そうか。では、ボクはもう一人に注視しよう」
その言葉に、ロメオは思い出す。
「ジュスト。そのもう一人とはどこにいる?」
「わからない。正確には把握できていないが、潜んでいる。向こうだ」
と顎で示す。
「物陰に身をひそめ、そいつもドメニコを見てる。なにかが起きるぞ、ロメオ」
「もう起きてる」
「ふっ。そうだった」
苦笑したジュストだが、その第三者へと注意を向けたままレオーネのほうは見ない。
「レオーネとドメニコはロメオが見ていてくれ」
「ああ」
舞台では、レオーネが自己紹介をして、一礼した。一人称もいつもの「オレ」から「私」に変えて気取った調子である。相手や状況によって、レオーネはたまに一人称を変えることがあるのだ。
これを見つめるドメニコが口をつく。
「『ASTRA』の、レオーネ……『千の魔法を持つ者』か」
「ええ。確かに私はそう呼ばれています。さて、先程のあなたの行動、見させていただきました。いやあ、すごかった。まさか、あんなことをしていたなんて。驚くばかりですよ」
「ほう。貴様には見えていたのか」
「だから言えるんです。まずはこの場にいる紳士淑女のみなさんに、種明かしといきましょう」
優雅で知的な微笑を浮かべたレオーネに、ドメニコやロメオばかりか、ジュストまでが目を向ける。
おそらく、ジュストが注意を向けている第三者も、レオーネの言葉は気になるはずだ。 そして、レオーネはその第三者もあの舞台に引きずり出すことだろう。
なにも知らない観光客の老夫婦さえ、レオーネを見ていた。
レオーネは言葉を紡いでいった。
「今この世界には、《気象ノ卵》がある。いや、ずっと前からあった。気象を保つというこの魔力の粒は、『大気の子供』と呼ばれる精霊を産み落とす。地球の自浄作用を高めるため、その手伝いをするのだ。我々が豊かな自然を享受できるのは、彼ら『大気の子供』たちのおかげだと思われている。もちろん、ごく一部の智者だけにね」
一度言葉を切り、レオーネは舞台を歩き出す。
「しかし、『大気の子供』はモンスター化を起こす例がある。モンスター化すると、地球環境を破壊する人間を排除することで、地球環境を守り自浄作用をいっそう高めるという動きをする。このモンスター化はどんな原因で起こったのか。実はね、ドメニコさん、我々はそれを調べていたんですよ」
「我々とは、『ASTRA』か」
「ええ。『ASTRA』はマノーラの平和を守る存在ですからね。捜査の中で、我々はあなたにも興味を持った。あなたはなにをしていたのか。関係者として、私が気づいたことを述べましょう」




