66 『ジュストとの別れ 回想』
レオーネとロメオにとって、同い年の昔馴染みであるジュスト。
彼と初めて会ったのは、三人が十二歳になる年だった。
そのおよそ二年後、ジュストは引っ越すことになった。
原因は、ジュストの母が病気の治療をするためである。母の故郷でありジュストの故郷でもある『水の都』ヴェリアーノに戻るのだ。
ジュストは引っ越しが決まってからも、レオーネとロメオの前にやってきては、最後まで変わらぬ友情で接してくれた。
まだまだ語り合うことがあるんだと言わんばかりに、三人でいろんな話をした。科学のことばかりで、延々と議論した。
別れの日。
ロメオはジュストに聞いた。
「また、会えるんだよな?」
「当然だろ! ボクの母さん次第だけど、またマノーラにも来たいって思ってるよ」
今度はレオーネが言った。
「ジュストの夢は科学者だったよな」
「ああ。父さんみたいな科学者になるのが夢さ。分野まで同じかはわからないけど、科学全般好きだから、どの方向に進むかめちゃくちゃ悩むぜ」
「キミが科学者になるのを楽しみにしてる。応援もしてるよ」
ジュストは「ありがとう」と礼を言って、それからレオーネとロメオの二人を見て明るい笑顔をつくった。
「なんかわからないけど、おまえたち二人はすごいやつになるって思う。将来、大物になるんじゃないかってさ。だから、そんなおまえたちと並び立てるように、ボクも頑張る!」
「レオーネはともかく、ワタシにはなにもない。期待はするな」
ちょっとはにかんだようなロメオに、ジュストがつっこむ。
「二人共、頭が切れる。そしてそれ以上のなにかを持ってる。期待せずにはいられないってもんさ」
「頑張らないとな、ロメオ」
少年らしい笑みを浮かべているレオーネに、ロメオは笑い返した。
「そうだな」
このスラム街から出て、なにかを成し得る人間になりたい。それはずっと胸に秘めていることだ。
ジュストはレオーネとロメオに背を向けた。手を振る。
「おまえたちといられて、楽しかった! またな」
別れが寂しいのは、レオーネとロメオ以上だったかもしれない。振り切るように走って行ったジュストは、一度も振り返らなかった。
ジュストと別れた、約六年前。
その日のことを、ロメオは夢に見た。
ふと目が覚めたが、まだ深夜だった。
――ジュスト。ワタシはまだなにかを為し得る人間になれたのかわからない。だが、おまえは立派な科学者になった。尊敬するよ。
あのときからロメオもずっと心配していたジュストの母親のことだが、言わなくともわかっていた。長らくマノーラに帰ってこられなかったのは、ジュストの母親はしばらくは命をつなぐことができ、その間にそちらでの生活基盤がしっかりできたからであろう。その「しばらく」がどの程度の期間だったのかは、ロメオも聞けないが。
そして、明日の決戦のことを考えて、ロメオは目を閉じた。
――《気象ノ卵》から生まれる『大気の子供』。そのモンスター化。レオーネからは、完全な推論は聞いていない。だが、明日には決着する。レオーネは、なにに辿り着き、なにを思っているのだろう。
気になることは多く、揺れる感情もある。しかし、不思議とすぐに眠りに落ちていき、日が昇るまで目覚めることはなかった。




