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59 『重ねる観察』

 まだ、こちらの存在は気づかれていない。

 レオーネとロメオはそれだけは信じていた。


「オレとロメオに視線を止めたことは一度もない。ドメニコの警戒癖は、隠密行動をする者にとって当然の範囲内で、尾行が気づかれた様子でもなかった」

「同意する。ワタシもそう思う」


 歩くのが速いドメニコを追跡するのは、思った以上に難しい。神経を使うのはもちろん、今日は魔法の相性も若干よくなかった。


「明日は、姿を変えたり透明になれる魔法がいいんだが」

「姿を変えるのはともかく、透明になれる魔法など持っていたのか? レオーネ」

「いいや。ない」

「一応、姿を変えても、何者かに尾行されていると気づかれるのもよくない。魔法に頼る以上に、慎重かつ粘り強い尾行でチャンスを逃さないことが大事だ」

「それもそうだな」


 作戦はそれくらいのもので、ドメニコの本質的な狙いもわからない以上、尾行の継続による情報収集が第一だということで意見がまとまった。




 翌日も、レオーネとロメオは尾行をした。

 最初の一時間は歩き回るばかりだったドメニコだが、この日も公園に立ち寄ってはキョロキョロして、別の公園へと渡り歩く。

 昨日も訪れた公園に来て、これも違うと言いたげにまた歩き出す。

 四件目の公園で、レオーネとロメオが観察していると、急に、ドメニコはこちらを振り返った。


「――」


 レオーネとロメオは、持ち前の瞬発力で、相手の視界に入る寸前には身を隠すことができた。

 魔法などではなく、レオーネが鏡を器用に使ってドメニコの様子を探る。

 だが、ため息が漏れた。


「もういない」

「追うぞ」


 しかし、ロメオが物陰から飛び出したときには、もう完全に見失ったあとだった。


「気づかれていない。だが、なかなか手強いな」


 苦笑するレオーネに、ロメオは聞いた。


「目的は公園だろうか」

「どうかな。公園にはよく来ているが、見ているものが違う」

「見ているもの?」

「人を見ているときもあれば、空を仰いでばかりのこともあるし、木々や自然を観察しているときもある」


 そこまではロメオも気づかなかった。

 このあとまたドメニコに遭遇しないものかと歩き回ったが、この日は出会うこともなかった。

 また翌日、さらに翌日と観察して、ロメオもドメニコがなにを見ているのか注意してみたが、まるでわからなかった。

 人間を見ること、自然を見ること、建築物を見ること、また別のなにかを見ること。

 そこには、ドメニコの目的につながるものはないのだろうか。

 異常気象がたびたび見られるマノーラだから、大雨の日にも出かけて行ったし、竜巻の多い強風の日にも、ドメニコは変わらず外を歩き回った。

 五日目になって、レオーネとロメオがいつものようにドメニコを追っていると、この日はすぐにドメニコの足が止まった。

 公園でもなんでもない、ただの橋の上だった。

 そろそろと橋を渡って、なにかを見つめている。

 ドメニコの視線の先にあるものがなんのか、レオーネとロメオが突き止めようとしたとき――

 後ろから、声がかかった。


「怪しいじゃないか」

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