56 『新しい住人』
リディオとラファエルが帰ってくると、元気な声が聞こえてきた。
「うおおおお! いい匂いがするー! ランチはカルボナーラだぞ!」
バッと部屋に飛び込んできたリディオに、アキとエミが親指を立てる。
「正解!」
「もうすぐできるってグラートさん言ってたよ!」
思わぬ人物が返事をしたことに、リディオは顔を輝かせた。
「おおお! アキさんとエミさんじゃないか! びっくりだぞ!」
「リディオくん、ラファエルくん、おかえり!」
「おかえり! お邪魔してるよ!」
あとから部屋に来たラファエルが、もう手を取り合って喜んでいる三人を見て驚いた。レオーネとロメオに目を転じる。
「お知り合いでしたか」
「さっきね」
とレオーネが答えると、リディオとアキとエミがはしゃぎながら、
「ロメオ兄ちゃんとも友だちだったなんてなー!」
「今日友だちになったんだ!」
「みんな集まって楽しいね!」
ラファエルが苦笑交じりな笑顔で、
「ボクとリディオとも、今後とも仲良くしてください」
「もちろんだよ!」
「よろしくね!」
アキとエミは陽気な笑顔で答えた。
「それにしてもリディオ、よくこんな場所からカルボナーラなんてわかったな」
ラファエルがそう思うのも当然で、みんなが集まっている部屋と厨房までは距離がある。歩いてくる途中でもラファエルは気づけなかった。
「お腹が空いてたんだろう」
と、ロメオがラファエルに言って小さく笑い合う。レオーネはクールな瞳で、チラとリディオを見た。
そのあと。
四人がわいわいやっているところに、グラートが食事を運んできた。
この日、ルーチェはヴァレンの付き添いで城を出ており、執事のグラートもぜひいっしょにとアキとエミに言われて、普段は共に食事しないグラートもいっしょに七人で食卓を囲んでいる。
食事中、ロメオがアキとエミに質問した。
「アキとエミは旅をしてるそうだけど、予定はあるのか?」
「ないよ。ちょっとイストリア王国中を見て回ろうかなって思ってる」
「南にあるポパニもいいし、ヴェリアーノも行ってみたい」
「カシリア島もいいよね」
「全部行こーう!」
エミが拳を突き上げると、「おー!」とアキも両手を挙げた。
リディオが提案する。
「だったらさ、イストリア王国の観光中、このロマンスジーノ城に泊まったらどうだ? いっしょにたくさん遊ぼう!」
「拠点にするってこと?」
とラファエルが聞くと、リディオがナイスアイディアと言わんばかりにうなずいた。
「それだ! 拠点がいい!」
そう言ったリディオの顔は本当に嬉しそうで、楽しそうでもあり、ロメオも自然と心からの笑顔を浮かべていた。
「いいの?」
アキがみんなを見回すと、最初にレオーネが応じる。
「いいに決まってるさ。この城の持ち主はヴァレンさんではあるけど、普段はあまりいないし客の招待は自由なんだ」
「むしろ、客ではなくこの城に住んでくれてもいい」
ロメオもそんな相槌を挟む。
この二人が『トリックスター』だからというだけではなく、二人を心から気に入ってしまったからだった。
グラートもにこにことうなずく。
「それはよい考えですね。お部屋はいくらでもございます」
「お城に住めるなんて夢みたいだ! ありがとうございます!」
「わーい! ありがとうございます! アタシたちに新しいおうちができたー!」
「やったな! アキ、エミ」
リディオがアキとエミに負けないくらい興奮しながら喜んでいる。それがおかしくてラファエルは小さく笑った。
「遊び相手が増えるね、リディオ」
「おう!」
ロメオがレオーネに、「ヴァレンさんには喜んでいただけるだろうか」と聞くと、当然のように返される。
「気に入るだろうね。彼らがかの『トリックスター』であることを差し引いても、この賑やかさは嫌いじゃないはずさ」
「知ってたのか。レオーネ」
「ああ。星降ノ村と聞いてピンときた。ルーチェなんかは、そんな彼らの特殊な性格をさておき、女子の友人ができることはうれしいんじゃないかな」
「だな」
午後は少しだけみんなと城内で過ごして、レオーネとロメオは二時半にはシャルーヌ王国へと発った。
もちろん、《盗賊遊戯》によってレオーネが妹・ルーチェの魔法《出没自在》を使用して。
翌日から、アキとエミとの不思議な生活が始まった。




