55 『同い年の友だち』
どうやらアキとエミは、一昨日の八月三十日にリディオとラファエルの二人と友だちになったらしい。
レオーネとロメオがリディオとラファエルと散歩した日であり、その午前中に友だちになったと教えてくれた「おもしろい二人組」とは、まさにアキとエミのことだった。
少し話しただけで仲良くなり、アキとエミを居城にも招待した。
「ここがオレとロメオが住んでいるロマンスジーノ城だよ」
「うわー! かっこいいー!」
「すごーい! お城に住んでるなんて素敵だね!」
目を輝かせるアキとエミを、さっそく城館の中に通した。
管理者であり執事のグラートが丁寧に「ようこそお越しくださいました」と挨拶して、食事をするためのダイニングルームに案内した。アキとエミはだれとでも仲良くなれる才能があるのか、グラートとも友だちになった。「腕によりをかけて、美味しいランチをご用意しましょう」と言われれば、子供みたいに素直に大喜びしていた。
レオーネは言った。
「リディオとラファエルは、今日はお昼には学校も終わる。ランチはいっしょにいただこう」
「それまでアキさんとエミさんのことを教えてください」
ロメオの言葉遣いを聞いて、アキとエミは楽しそうに笑う。
「もっと気軽に話してよ、ロメオくん! ボクたち同い年くらいっぽいしさ」
「そうだよ。アタシとアキは創暦一五五二年の一月一日生まれの十九歳。今度二十歳になるんだ。レオーネくんとロメオくんは?」
ははっ、とレオーネが笑い答える。
「ビンゴだね。オレとロメオは創暦一五五一年生まれ。学年としてはいっしょだ」
四月二日が学年の切り替えであり、それはルーン地方の学院でも晴和王国の学校でも同じだった。
つまり、四人は同級生となる。すでに四月二日に誕生日を迎えているレオーネだけが一足先に二十歳になっている。
「やっぱり! じゃあ敬語はなしで頼むよ」
「アタシたちにはめずらしい、同い年のお友だちだね! やったー!」
喜ぶ二人を見て、ロメオもなんだか二人に気を遣うのがおかしなことに思えていた。不思議な雰囲気を持った二人で、もうずっと前から友だちだったような気がしてくる。彼らをすっかり好きになっている自分に気づく。
しかし、ロメオもちゃんとした自己紹介はしておきたい。
「まだ互いに名乗っていなかったと思う。ワタシは狩合呂芽緒。ここマノーラに住むイストリア人だ」
「同じく、オレは振作令央音。アキとエミの本名は?」
レオーネに聞かれて、アキとエミは朗々と名乗った。
「ボクは明善朗」
「アタシは福寿笑だよ」
「晴和王国の照花ノ国出身さ」
「照花ノ国の中でも、世界樹の近くにある星降ノ村ってところなの」
二人の自己紹介を聞き、レオーネは「なるほど」とつぶやいた。
「『最果ての村』か」
世界の最果てを世界樹とするならば、その世界樹にもっとも近い村である星降ノ村は、そんな呼び名も持つ。世界樹はこの世界の魔法文明の象徴でありながら、晴和王国以外の国から見れば遥か遠い地にあるからこそ、そんな呼称がついた。
ロメオはその名を聞いて、思い出すことがある。
――この二人……もしかして、あの『いたずら好きな星』か?
噂には聞いていた名である。
世界を渡り歩き、まるで運命の友人であるかのように、関わった人々の運命を意図せず変えてしまうという。
自然の秩序さえ無視し、均衡を破壊して、論理を再構築せしめ、盤面をひっくり返す存在。
人は『星降の妖精』とも呼び、はたまた……。
――『トリックスター』。そう呼ぶ人もある。あくまで噂だが、おもしろい人たちに出会えたものだ。
むろん、本人たちに自覚はないから、確かめようもない。
だが、確信はあった。
そして早くも、レオーネとロメオの運命にも、二人は影響を与えてゆくのである。




