53 『貼り紙』
アキとエミのイタズラな表情の意味を問いただしたいロメオだったが、二人はまたすぐに「行くよ」と手を引いた。ターゲットが移動したからである。
四人がまた少し尾行を続けると、ターゲットは人気のない林に入っていった。広場に隣接した公園の林で、人がいない分それだけ静かだ。見つからないよう、音も消さなければならない。
ロメオが注意してターゲットを見ていると、突然、アキとエミがカウントダウンを始めた。
「さん、に、いちっ……」
と声をそろえて、次の瞬間――。
ズボッと、大きな音が立つ。
ターゲットが消えた。
これは落とし穴だ。
なんと、落とし穴に落ちてしまったらしい。
慎重に尾行までしていたターゲットを落とし穴にはめたのは、おそらくこの二人――アキとエミだろう。
アキとエミは嬉々として落とし穴へと駆けてゆく。
「やったー!」
「大当たりー!」
呆気に取られるレオーネとロメオ。
謎めいたイタズラを仕掛けているアキとエミはといえば、落とし穴に落ちたターゲットにしゃべりかける。声の調子はさっきまでと変わらず愉快で明るい。
「キミ、悪いことしてるでしょ!」
「いけないんだよ? さあ、マノーラ騎士団に自首しよう? ね?」
小さい子に注意する口調のエミだが、マノーラ騎士団に自首するほどのことをした人間がそんな言葉で自首するものだろうか。
引き上げてあげる、とアキが手を差しのばす。
アキにつかまって引き上げられたターゲットは、帽子を外して、迷惑そうな顔で、ため息まじりに言った。
「自分はマノーラ騎士団の一人です。自首とはなんのことですか?」
「えー!」
「騎士の人!? なんで?」
これには、アキとエミも驚いたが、レオーネとロメオも驚いた。
「カリストさん?」
「こんなところで、いったいなにを……」
アキとエミが追っていたターゲットは、なんとマノーラ騎士団の昌露雁須斗だった。まだ二十九歳という若さで、騎士団長オリンピオに次ぐ指揮権を手にした騎士。しかも、マノーラ騎士団には最近入ったばかりというエリートだ。
エリートらしい端正な佇まいと、人当たりのよい社交性を持ち、レオーネとロメオとはすでに何度か顔を合わせたことがあった。
カリストはレオーネとロメオに気づくと、シンプルな疑問を呈した。
「レオーネさん、ロメオさん。自分にどのような用件があって、こんなことをしたんですか?」
「我々もわかっていないんです」
「彼らに連れられて、ここまで来たもので……」
申し開きもできないでいるレオーネとロメオから、カリストの視線は再びアキとエミに向けられる。当のアキとエミは腰に手を当てて顔を見合わせた。
「悪い人じゃないの?」
「さあ? レオーネくんとロメオくんのお友だちみたいだし、違うかもしれないよ」
「じゃあ話を聞こうか」
「そうだね!」
相談が終わり、アキとエミはカリストに言った。
「怪しいことしてた理由、教えてもらいますよ」
「これじゃあ、アタシたちがイタズラっ子みたいになっちゃいますからね」




