52 『アキとエミ』
おかしな晴和人のコンビは、まだ十代の半ばに見える男女だった。
共通してサンバイザーをかぶり、オレンジ色のパーカー、少年は黒いズボンで少女は黒いスカート、背はどちらも一六五センチほど。
彼らのなにがおかしいのかといえば、怪しげな行動だった。
男女は物陰に半身を隠して、だれかを尾行しているようなのである。
レオーネとロメオは顔を見合わせ、この男女に近づいてみることにした。
すぐ後ろまで来て、男女を見る。
それから彼らが尾行しているターゲットを見た。
――目深にかぶった帽子。顔は見えない。それだけだ。怪しいといえば怪しいが……。
ロメオが内心で首をひねり、レオーネもぼんやり見ていると、晴和人の男女はこちらを振り返った。
「見つかっちゃうよ」
「気をつけて」
グッと腕を引かれて、物陰に隠れさせられる。
レオーネが声をかけようと口を開きかけたところで、少年と少女は楽しげにささやき合う。ただし、隠密行動は苦手なのか、声はちょっと大きい。
「やっぱりそうだよ、エミ」
「だよね、アキ! あの人を尾行してる人がほかにもいるってことは、そういうことだよね」
うふふ、とエミと呼ばれた少女がうれしそうに口を押さえる。
二人はアキとエミという名前らしい。それ以外の情報はまるでわからない。アキとエミは尾行に集中しており、名乗る気配もない。
「あ、動いた。よーしっ」
「行こーう」
レオーネとロメオはアキとエミに手を引かれて、なぜか二人といっしょに知らない人の尾行をすることになった。
アキとエミはこそこそと尾行しつつ、たくみにレオーネとロメオを連れ回す。
子供が遊んでいるだけだと判断したレオーネが抜け出そうとしても、つかまってしまって尾行に同行させられる。
「今度はあっちだ」
「てことは、そろそろだね。アキ」
「うん」
「楽しみー」
レオーネはアキとエミの後ろで、ロメオにそっと耳打ちした。
「オレたちはヒマではあるが、遊んでもしょうがない。帰ろう」
「そうだな」
言葉を交わしているレオーネとロメオだったが、手首を取られてまた連れ回されてしまう。どんな修羅場もくぐり抜けてきた機を見るに敏な目を持っている二人も、なぜか彼ら二人からは逃れられない。
四人は広場にやってきた。
ターゲットは、目深にかぶった帽子の下から、掲示板に目を走らせているらしい。新聞のほか、マノーラにおける新しいニュースが張り出されることも多い。それ以外にも、探し人の依頼や特定のだれかに向けたお知らせなど、様々なものも貼り出されている。
アキとエミはワクワクしながらターゲットを見ていた。
なにをやっているんだかと指先でこめかみを押さえるレオーネに対して、ロメオはなぜだかアキとエミの追うターゲットが気になり、二人と共に観察していた。もちろん、物陰には半身隠れている。
掲示板に手を伸ばしたターゲットは、貼り紙をめくっていた。そこに、一枚の別の貼り紙が隠れている。それを手に取って、ポケットにしまった。
「あれは……」
ロメオのつぶやきに、レオーネが「なんだい?」と言いたげなにつまらなそうな目を向け、アキとエミがニヤリとした。




