51 『調査開始』
九月一日。
『水の都』ヴェリアーノから戻ってきた翌日、レオーネとロメオはさっそくドメニコのことを調べ始めた。
絵関選止二胡。
レオーネとロメオの旧友・ジュストの父親・マンフレード博士の教え子であり、《気象ノ卵》の研究を手伝っていた助手でもある。
マンフレード博士のことは尊敬していたらしいが、ジュストのことは嫌っていたようで、ジュストもドメニコのことを毛嫌いしている。
ドメニコは、レオーネとロメオが先日マノーラですれ違ったとき、怪しいことを口走っていた。
「なぜ、皆気づかない。この死を持って気づくべきだ。人類が目覚めるときは、とうに来ている。目覚めよ。目覚めよ。目覚めよ……」
最初は宗教家が自分の世界に入っているのかと思ったが、もし「この死」というのが、《気象ノ卵》から生まれた『大気の子供』がモンスター化して不審死を引き起こしていることを意味しているとすれば、彼なりの考えが彼の胸中に渦巻き、事件とも関係しているかもしれない。
レオーネが使った魔法、《三つのお告げ》では、名前と年齢、それと彼を象徴する映像を見ることをした。
そこでは、年齢が二十七であることと、白衣姿と黒板の映像が見えた。どこかの研究室も見えたが、それは昨日ヴェリアーノを訪れたときに調べたマンフレード博士の研究室だった。しかも、ドメニコのものと思われる文字でエッグについての考察も書かれていた。
なにより彼を怪しむ理由となったのは、『・人為的にどれほど変えられるか、調べる価値あり。』のメモ。
彼がなにかを企み動いている。その可能性を疑い、レオーネとロメオはドメニコを捜査対象とした。
ジュストの話では、最近になって急に科学者の世界から消えていたらしいし、無関係とは思えないのだ。
「さて。ドメニコについてもっと深く知りたい」
「ジュストに聞くか、ドメニコ氏の周辺調査をするか。どうする?」
ロメオに水を向けられ、レオーネは肩をすくめてみせる。
「悪くない二択だ。しかし、オレはジュストに聞くのは避けたい。理由は、ジュストのフィルターが少々濃いから。悪意的にしか情報を得られなくなりそうじゃないか」
「ワタシたちもドメニコ氏をモンスター化の犯人であると仮定して捜査するんだ。今更じゃないのか?」
「全然違うよ、ロメオ。前提や向かう方角はたとえ同じでも、事実というものは少しでも歪曲されたら真実を映さないゆがんだ鏡となる。そして、向かった方角を変えられず、引き返せなくなる」
「それもそうだな」
もっともな意見である。そんな説明をされると、ロメオにも異論はない。
「実は、『ASTRA』の仲間たちにはもうドメニコ氏のことを調べてもらっている。彼がどこに住んでいるか。彼が普段、なにをしているのか。彼の人となりはどうか。その結果を待ってもいい」
とロメオが続けた。
「さすが、ロメオは手配が早いな。昨日の今日だし、みんなもまだまだ情報収集に時間がかかることだろう」
「ああ。ドメニコ氏の住まいさえわからない段階だ。様子を見よう」
「構わないが、そうすると今日はヒマだな」
今は午前中。一応、今日はヒマと言っても午後の三時にはマノーラからシャルーヌ王国に飛んで別の仕事もやらねばならない。
そのとき、ロメオが視線を遠くに投げた。
レオーネもそちらに視線を移す。
「なんだ、あれは……」
「おかしなことをしてるね」
クッとレオーネが笑う。
二人の見つめる先には、晴和人らしき二人組がいた。
彼らとの出会いは、レオーネとロメオにとって、人生に影響を与えるほどの大きな出会いとなる。




