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48 『リディオとモレノ』

 八月三十日。

 レオーネとロメオは、この日は明け方に仕事を終えて城に戻ってきた。やるべき仕事も午前中にはなく、仮眠を取ってから夜まではゆっくりできる。

 だから、昼下がりは部屋で優雅にくつろいでいた。

 出かけていたリディオとラファエルが帰ってくる。


「ロメオ兄ちゃん! ただいまー!」

「おかえり。リディオ、ラファエル」


 リディオはすがすがしい顔で、


「今日も花にたくさん水をやったぞ」

「偉いな」

「へへ。環境に優しくして、花が増えるといいな」


 ああ、とロメオがうなずく。

 ロマンスジーノ城にはリディオのおかげでチェレンカの花が増えたし心華やぐ。

 それから、リディオはロメオに構って欲しくてお願いした。


「ロメオ兄ちゃん、今時間あるなら遊ぼう!」

「ああ。いいぞ」

「ぃやったぁー!」


 バンザイして喜ぶリディオを見て、ラファエルは優しい苦笑を浮かべる。


「よかったね、リディオ」

「おう! ラファエルもいっしょに遊ぼう」

「うん」


 今日は素直にうなずき、ロメオに相手をしてもらうことにした。


「なにをする? リディオ」


 ロメオに聞かれて、リディオは楽しそうに考える。


「えーっと、強くなるための修業もいいけど、せっかくだからうまいもの食べたり散歩したりもいいし、迷うなあ」

「じゃあ、とりあえず出かけるか」

「おう!」


 一応、ロメオはレオーネにも「来るか?」と聞いた。


「行こうか。気分転換になるしね」


 ということで、四人で城を出た。

 当てもなく歩くが、リディオはいつも以上に足取りが軽くちょこちょこ動き回り、いろんなものを見てはロメオにしゃべりかけ、知らないものを聞いたり冗談を言って笑わせたり、四人共楽しい時間を過ごした。

 ナイフを売っている店の前で、五十歳くらいの男性がプランターの花にじょうろで水をやっていた。リディオやほかのマノーラ人と同じく、育てている花はチェレンカだ。マノーラの象徴であり、マノーラでは人気のある花である。


「こんにちは。デッカーさん」

「こんにちはー!」


 レオーネとリディオが挨拶して、ロメオとラファエルもこんにちはと言う。知り合いのナイフ職人だが、彼がこんな店先で花を育てている姿などロメオは初めて見た。


「こんにちは。レオーネくんにロメオくん。リディオくんとラファエルくんも」

「おじさんもチェレンカか! きれいな色だなー! つやがいいぞ! おれもいっしょに水をあげようか?」


 いっしょに花を育ててやりたくて仕方ないという顔で申し出るリディオに、デッカーは笑って首を振った。


「いいや。いいよ。もうすぐ水やりは終わりだからね」

「そっかー。残念だぞ」

「だが、色つやがわかるなんてやるな」

「へへ」


 とリディオが鼻の頭をかく。

 ラファエルが質問する。


「お花を育てるなんて、なにかあったんですか?」

「似合わないかい? 自分でもそう思うんだけどね、そんな気分になることだってあるさ。花はきれいだ。見てると、微細な色の変化にも敏感になるのがわかる。匂いとかもよく感じられるようになった。最近だと、わたし以外にも近所では花を育てる人がぽつぽつ出てきてるよ」

「ちょっとあんた、計算間違えてたよ。さっきのお客さんに、足りなかった分のおつり渡してきてくれる?」


 店からデッカーの妻が顔を出して言った。


「お。そうだったか。いやあ、うっかり」

「最近多くないかい? 花に水やりするのもいいけど、しっかりしとくれよ」

「わかってるって」


 苦笑を浮かべながらおつりを手渡す妻に、照れたように笑い返すデッカー。それが花を愛する人の優しさの裏返しのようにロメオには思えて、穏やかな気持ちになる。


 ――マノーラには、デッカーさんが言うように花を育てる人も増えていると聞く。たとえ花がきれいだからという理由からだけでも、人類の環境への意識や行動も捨てたものではないんじゃないか?


 エッグからモンスター化した生物が生まれて人間を殺そうとしていても、いつか環境を保護する力が追いついて欲しい。そんなふうにロメオは思った。

 じゃあまたね、とデッカーが手を振って、リディオも大きく手を振り返して、四人はまた町を歩く。


「今日は楽しいなー! 午前中にはな、友だちもできたんだぞ! おもしろい二人組で、楽しいんだー!」

「そうか。よかったな」


 ご機嫌のリディオを見ると、ロメオもうれしくなる。優しい気持ちでオフを過ごしていると。

 途中、モレノの演説する前を通りかかった。

 リディオはロメオを見上げて言った。


「あの人、すごいこと言ってるんだぞ。人間は環境を破壊してるんだってさ。地球自身が環境を守るために、タマゴからモンスターが生まれて人間を攻撃して、人間が死んでるって言ってた。おれの目にはモンスターなんて見えないけど、地球ってすごいんだな」


 モレノのことを、怪しい活動家としか思わない人が大半である。それと比べても、リディオはまるで偏見もなく、しっかりとモレノの話を聞いていたらしい。

 レオーネとロメオが、モレノを自分たちの知人だと教える前に、リディオはもう話しかけていた。


「こんにちは!」

「ん? おまえか」

「今日は兄ちゃんたちと散歩してるんだぞ。紹介するよ」


 しかし、モレノはレオーネとロメオを見ておかしげに笑った。


「この純粋すぎて危ういリディオに兄がいるって話だったが、おまえたちのことだったか」

「そうなんです。レオーネさんとロメオさんも知り合いだったんですね」


 ラファエルがモレノとレオーネとロメオを交互に見た。


「なんだ、ロメオ兄ちゃんも知ってたのか!」

「ああ。モレノさんから話を聞いて、エッグの件を調べてる」

「オレとロメオはこのあとも調査に行くんだ」


 モレノはレオーネとロメオに聞いた。


「その後、なにかあったか?」

「いいえ。有力な情報はなにも」


 そのあと少しだけ話をして、モレノが「リディオはいい目をしてる」と褒めてくれた。特に環境問題に感心が強いわけでもないのに、リディオを気に入ったらしい。最近ロマンスジーノ城で花を育てているから、ちょっとだけでもリディオには好感を持つ雰囲気があったのかもしれない。賛同者でありながら友好的な姿勢を見せなかったマノーラ騎士・カリストとは大きな違いである。

 四人はモレノと分かれて家路につき、夕食を済ませてから出かけた。

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