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47 『進行状況』

 翌朝。

 ロメオはレオーネと共に闇医者・ファウスティーノの元を訪れた。

 昨夜の戦いで負った傷を、治療してもらうためである。


「どうして昨日うちに来なかったのだ」


 淡々と非難するファウスティーノに、ロメオも感情を表に出すことなく答える。


「深夜に訪ねてくるほど、ワタシは非常識な人間ではありませんよ」

「余計な気遣いは、時と場合を選べ。時間が経って傷が悪化して治療の手間が増えたら私の仕事が増える。私とおまえたちには不要な礼儀だ」

「そうですね」


 とロメオは小さく笑った。

 年は少し上だが、長い付き合いの友人でもあるから、話しやすいし気兼ねもない。レオーネも「だからオレはすぐに押しかけて治療してもらおうと言ったんだ」と肩をすくめる。

 今日訪れたのは、治療だけが目的ではない。エッグと不審死について、ファウスティーノのほうでも情報が集まっていないか聞くためでもあった。

 ファウスティーノ自身も忙しそうだが、レオーネとロメオのほかに友人が訪れることもないからか、おしゃべり好きでもないのに付き合ってくれる。

 といっても、客人の対応ではない。治療後は仕事をしながら会話をする程度である。

 モルグ、つまり死体を安置する部屋で、保管された死体のチェックをしつつ、近況を教えてくれた。


「死者の増加は見られない。私の元へと運ばれてくる死体も、不審死を辿ったものの中のほんの一部なのだ。データを期待するならそれに応えることはできない」

「感覚としてはどうだい? ファウスティーノ」


 レオーネに聞かれ、ファウスティーノは淡々と言った。


「私は感覚でデータを見ることはない。レオーネ、ロメオ。今度も調査は続けるのか?」

「ああ。ジュストが言うには、犯人はいるということだ。モンスター化を促す何者か、あるいは環境に大きな影響を及ぼす何者かが」

「ふむ。確かに、環境に大きな影響を与える人間はいる。特に地位のある人物だな。彼らのせいで、一説によると環境汚染の影響はここ数年右肩上がりらしいのだ」

「右肩上がり?」


 予想外の言葉に、レオーネとロメオは目を丸くした。


「どうしたのだ?」


 ファウスティーノが冷静に聞き返すと、ロメオが答えた。


「ジュストの話では、環境汚染や森林伐採などは、三年ほどはほとんど横ばいだということです。だからジュストは、犯人がいると考えられると言った」

「なるほどな。彼は間違ってない。データなど、だれがどこでどう取ったかによって変わる。たとえば、観測者が先進国のお偉いさんだとしたら、地球全体で見れば増えていても、先進国で横ばいなら横ばいだと言っておかしくないわけだ。先進国が後進国の森林を伐採しても、先進国の自然環境が変わらねば、データを取る人間によっては、データが変わったとは言えないのだ。現に、マノーラは横ばいといえる」

「つまり、マノーラでは環境汚染は進んでいないのか」

「進んではいる。エッグから生まれたモンスターによる不審死。その件数が毎日ほぼ均一に二人か三人程度というだけで、合計値は増えているようなものだ。横ばいとはそういうものなのだ」


 だとすれば、ジュストの言葉に矛盾はない。

 むしろ、ロメオがジュストの言葉で引っかかっているのは、ドメニコに関することだった。

 マンフレード博士の教え子にして、エッグの存在を知る人物。だが、最近では科学者としてその世界から姿をくらませている。昨晩の誘拐犯をけしかけたのもドメニコだと、ジュストは考えている節がある。

 レオーネとロメオにエッグの調査を辞めるよう誘拐犯を通して告げてきたりしたのは別人かもしれないが、気になる点も多い。

 作業を続けながら、ファウスティーノは言った。


「それで、他にも聞きたいことがあるようだが、なんなのだ?」

「死体の用途についてさ。綺麗な死体はなにに使えるかな?」


 レオーネが質問すると、ファウスティーノは黙考した。運び屋・アドリエンが死体を運んでいたことを教えると、答えが返ってきた。


「それは偽装工作が多い。おまえたちみたいなアンダーグラウンドな組織でも、殺しの後始末はそれぞれ。私のところに死体を買いに来る連中さえいる。偽の死体を使って自分が死んだと見せかけ逃亡したり、汚いやつだとターゲットの抹殺に失敗したところで偽の死体を使ってごまかしたりする。死体を買うだけで済むなら、安全に報酬の差分をいただけるからな。もっとも、私は死体を売ったことはないぞ。ただ、いくらでも使い途はあるものだ。だから、その運び屋と組織の追求を強めても、エッグの調査は進展しない可能性が高い。そちらは『ASTRA(アストラ)』の配下に任せて、おまえたち自身は本筋を追うべきだ」

「グラッチェ。そうするのがよさそうだ」


 ウインクするレオーネに、ファウスティーノは無表情で続ける。


「おまえたちは無理しがちだ。いつもその圧倒的な戦闘力や能力にかこつけて、大変な仕事も平気でやろうとする。無茶はするなよ」

「ありがとうございます。ファウスティーノさん」


 ロメオが礼を言って、レオーネはにこやかに冗談を飛ばす。


「また怪我でもしたらお世話になるよ」

「高くつくからな」


 無表情に冗談を返され、しかしそれは本気なのだとわかりレオーネとロメオは笑った。ファウスティーノも小さく笑った。

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