38 『ロマンスジーノ城』
ロマンスジーノ城。
それは、世界的にも有名な『革命家』時之羽恋の暮らす城の名前だった。
井空蔵途はこの城の執事である。
グラートは今年で六十四歳になり、長年ここで執事を続けてきた。
城としては小さなものだが、五角形の特徴的な城壁とその中には古く厳かな城館が配されている。
城館には、持ち主であるヴァレンのほか、六人の人間が住む。レオーネとロメオ、リディオとラファエル、レオーネの妹・ルーチェ、そしてグラートという六人だ。
ただ、元々は城と呼ぶには物々しい感じのない館で、別の人間たちが暮らしていた。
ラファエルの家族・或縁丹家である。
或縁丹家は貴族だった。
使用人もたくさんいた。
しかし、物心つく前の幼いラファエルを残し、両親は事故で亡くなってしまった。当主を失った家は廃れるしかない。まだ幼いラファエルに期待もできない。そうなると、たくさんいた使用人たちは去っていき、残ったのは執事長のグラートだけになった。
すべてを失っても、グラートだけはラファエルを育てようと考えていたが、どうしてよいものかわからなかった。
そんなとき、ヴァレンが突然現れた。
グラートはヴァレンを相手に事情を話して、ヴァレンにこの館を盗んでもらった。館を譲られたヴァレンは、そのままグラートを執事として雇ってくれることになった。もちろん、ラファエルも館に置いてくれるという条件で。
また、ヴァレンには彼の両腕となる幹部がおり、それがレオーネとロメオだった。二人にはそれぞれ妹と弟がおり、その四人もいっしょに住まわせてくれとヴァレンは言った。
この相談も、グラートは二つ返事で快諾した。
塀も改修して頑強な城壁にし、館も城館としてより堅牢にした。こうして城になったここを、名前も「ロマンスジーノ城」とした。
以来、グラートを含めたその七人がロマンスジーノ城で暮らしているのである。
ラファエルの面倒を見られることはグラートの生きがいであり、同い年の友だちとしてリディオがいてくれることもうれしい。唯一の女子でレオーネの妹・ルーチェは、幼いながら最初からメイドとしてヴァレンに仕えている様子であり、よくグラートの仕事も手伝ってくれる。執事長とそれをサポートするメイドといった関係性になっている。
グラートがレオーネとロメオに食事を出してやると、二人は食事を始めた。
ロメオが聞く。
「グラートさん。城内のことは、変わりありませんか?」
「ええ。なにもございません」
「そうですか」
ほんのわずかの間を取って、ロメオは問いを重ねた。
「ところで、最近……ここ一年ほどで、マノーラにおける自然環境の変化ってなにかありませんでしたか?」
「自然環境の変化ですか。はて。特にないように思われますが。なにか気に掛かることでもございますか?」
「いいえ。ワタシとレオーネが調査していることで、考え事をしていたのです」
それきりロメオは黙って食事に戻ったので、グラートも質問はやめた。
レオーネとロメオはいつも仕事を城内には持ち込まない。兄弟のルーチェやリディオさえ、二人がどんな仕事をしてきたのか知らないことがほとんどだ。こうしたスタイルはリーダーであるヴァレンもそうだから、グラートは彼らの仕事についてはほとんど知らなかった。
知らなくても関係なかった。
しかし、このあと城内にはレオーネとロメオが抱えている一件に関することで、事件が持ち込まれることになる。
グラートばかりでなく、ロメオさえもまだその足音に気づいていなかった。




