30 『検死』
レオーネは、メッセンジャーバッグの中に右手を入れて、「ん?」となにかに気づいた顔でロメオを見る。
「どうした? レオーネ」
「これは、魔法道具だ」
「収納系か」
「ああ。まず、オレたちが『ASTRA』の仲間から聞いた通り、ドラッグを持っていた」
とレオーネは白い粉を取り出す。
続いて。
「気になったのは次。取り出せばかなりの大きさになる。そうだな、人間くらいはあるだろう」
「なるほど。出してみてくれ」
「引っ張り出すよ」
バッグからモノを取り出す際には、重さを感じない。そういう効果を持つ魔法道具であるらしい。このバッグの最大の効果は、小さなバッグに大きな荷物を収納できることにある。
「これは……」
外に出されたのは、シートに包まれた重量感のある物体だった。取り出した張本人、レオーネにはもうそれがなにかわかっている。ロメオも薄々勘づいていた。
「ははっ。ロメオ、意外だったね。まさに人間サイズ。いや、人間そのものだ」
「が……人体といえど、死体だな」
「そうらしい。彼は運び屋として死体も運んでいたようだ」
バサッとシートを剥がして、中身を確認した。
綺麗な死体だった。
外部にはなんの損傷もない。
「まるで、例の死体のようじゃないか?」
「例の?」
レオーネが首をかしげるので、ロメオはうなずいた。
「エッグさ」
《気象ノ卵》。
この世界の気象を保つ効果を持つ、小さな粒。
ここから生まれたモンスターに殺された死体と状態が似ている。
「確かに」
「死体の状態が良すぎる点で、連想は避けられない」
「少し調べてみよう」
そう言うと、レオーネはカードを死体の顔に沿わせるように当てた。
みるみるカードが緑色に染まってゆく。リトマス試験紙のように簡単に色を変えたカードを見て、レオーネが検死結果を伝えた。
「緑色は、毒反応がない証。それどころか、肉体に悪いものがなにもない。生前、健康そのものだったはずだ」
「つまり、外傷による死以外、考えられないわけだな」
「もう一つ。老衰ならば、あり得る……が」
「ああ。彼は若い」
二十代の男性と思われる死体が、老衰するはずがない。
あごに拳をやって考える姿勢になるロメオに、レオーネが問うた。
「どう思う?」
「《気象ノ卵》から生まれたモンスターにやられたとみていい。あとで回廊の損傷を確認すべきだが」
「組織との関係は?」
「運び屋・アドリエンさんの組織がエッグに影響を与える活動をしている可能性は低い。おそらく、この綺麗な死体はうまいこと見つけただけで、綺麗な死体を二次利用したいだけだろう」
死体の悪用などいくらでもできる。使い途は多い。
「そんなところだろうな。末端の運び屋である彼がなにか知っているとも思えないし、この捜査はこれからしていこう」
世界中にいる『ASTRA』の仲間たちに捜査してもらうのがいい。
「が、この件は『ASTRA』に任せるとして、オレたちは本命を追うべきだ」
「ああ。ワタシたち自身が真相を究明する。そのためにも、モレノさんにはまた会わないといけない」
「次に会うのは三日後だったかな?」
「そうだな」
ロメオは答えて、口を閉じた。
レオーネがマノーラ騎士団に連絡し、それからしばらくして、マノーラ騎士団が到着した。