29 『爽やかな香り』
運び屋からの荷物を受け取ろうとしていた、取引相手。
そちらはロメオが片づけてくれた。
レオーネは、運び屋・アドリエンを捕らえる。
そのために、まず、アドリエンとの距離を一気に詰めた。
肩にかけている上着をはためかせて飛び上がったレオーネだが、カードを使わずに駆け出した。たったの数メートルに魔法などいらない。
カードを切るのは、別の用途のためである。
「そのカバン、いただくよ」
そう宣告され、アドリエンはカバンを探した。さっきまで肩にかけていたメッセンジャーバッグ。これは、転んだ拍子に肩から飛んで投げ出され、前方に落ちていた。慌ててカバンをつかむ。
「やるもんか!」
「グラッチェ」
「は? なんで礼なんて言って……」
「《鏡面交換》」
「?」
アドリエンは、声も出なかった。
なぜなら、自分が右手で握りしめたばかりのカバンのヒモが、一枚のコインにすり替わっていたからである。
「この魔法は、鏡のように見立てて、対象者と同じ場所にあるものを交換する。つまり、オレの左手で持っていたものとあなたの右手で持っていたものが交換されるというわけだ」
「だ、だ、だから、カバンを拾わせるようなこと言ったんだな!?」
わざわざ「いただくよ」と言ったから、取られまいとカバンをつかんだ。それこそがレオーネの狙いだったらしい。
ふふん、とレオーネは笑って、
「そういうこと。では、最後だ」
サッと、カードが投げられた。
カードは回転しながら綺麗にカーブを描き、アドリエンに飛んでゆく。警戒してアドリエンが避けるが、カードはアドリエンのすぐ側に落ちて、パッと消えた。
「《パラライズ・フレグランス》」
レオーネの言葉が終わるや、辺りに芳香が漂ってきた。
「なんだ、この匂い……」
「爽やかな香りだろう? シトラスに似てるかな」
悠々と答えるレオーネだが、この匂いが感じられる距離にはまだ入ってきていないと思われる。
アドリエンがレオーネに顔を向けたとき、異変に気づく。レオーネの顔を捉える前に、自分の首が動きを止めた。
「し、しびれ……?」
身体がしびれてきている。
これ以上、動くことができない。
「全身が麻痺する芳香なんだ。マノーラ騎士団が来るまでしびれていてもらおうか」
そう告げられて、アドリエンは悪態をつこうとするが、もう口を動かすこともできない。しゃべれないまま身体を横たえているしかなかった。
戦闘を終えたレオーネ。戦いというより、ただの捕縛といった感じだが、ロメオのほうも仕事が終わったらしい。ロメオがレオーネの元へとやってきた。片手で服ごと持ち上げて、もう一人の運び屋を地面に置いた。
「彼の名はベニート。彼の魔法もわかった。《コランダム・スキン》というようだ」
魔法、《コランダム・スキン》についてレオーネに話す。それを聞いて、レオーネは魔法をカード化した。
「うん。使えそうだね。その魔法の論理、盗ませてもらおう。グラッチェ、ロメオ」
「さて。では、バッグの中身を確認しよう」
「了解」
レオーネがメッセンジャーバッグを開けた。




