27 『運び屋アドリエン』
涼しい夜だった。
闇医者・ファウスティーノの元を訪れた二日後。
レオーネとロメオはマノーラの町のとある通りにいた。
こんな時間にもなると、これだけ大きな都市でも人通りは少なくなる。
通行人もまばらで、たまにマノーラの治安を守る警察組織・マノーラ騎士団がパトロールをしているのを見かけることがある。
晴和王国の『王都』天都ノ宮などは、夜も眠らない町として知られ、怪奇と幻想の咲く明るい闇に人々が酔いしれるものだが、マノーラは大都市であってもその性格はまるで異なる。
されど、どんな町でも、犯罪は昼にも夜にも行われるものである。
ここに、一台の自転車が走っていた。
メッセンジャーと呼ばれる人で、手紙や信書のほか、荷物も運ぶ自転車便だ。
世界中どこの町を走っていてもおかしくないはずだが、レオーネとロメオの今夜のターゲットは彼だった。
「来たな」
「ああ」
ロメオにレオーネがうなずいて、通りに身を躍らせる。
急に進路に現れた二人に驚き、メッセンジャーの青年はききぃーっとブレーキを握り自転車を止めた。
「運び屋、アドリエンさん。その荷物を見せてくれませんか」
「我々は『ASTRA』です」
メッセンジャー・アドリエンは、レオーネとロメオの言葉にぎょっとした。
瓶駄合鶏宴。
自称・メッセンジャー。
どこにも所属していない、フリーの運び屋。
レオーネはアドリエンのフルネームや、メッセンジャーであること、所属は特にない運びであることを、読み上げるように言った。
「しかし、実態はマフィア組織のドラッグを運んでいる運び屋だ」
やっと冷静さを取り戻して、アドリエンは言い訳をつくろう。
「は、運び屋だって!? おれはただのメッセンジャーさ。そりゃあ、依頼主の守秘義務は絶対遵守だから、預かった荷物の中身は知らないぜ? でも、それがメッセンジャーの正しい姿だ。それより、おまえらは何者なんだッ」
アドリエンはレオーネとロメオを指差した。
「さっきも名乗ったつもりだったが、我々が『ASTRA』であることしか告げていなかったか。オレはレオーネ。こっちが相棒のロメオ」
「マノーラの平和を守る、正義の味方だと思ってください」
クールな微笑で答えるレオーネとロメオ。
アドリエンは呆れたようにハッと笑い飛ばした。
「なんだそれ。マノーラ騎士団とでも言うんだったら、こっちから荷物を見てくれって言って無実を証明したいところだ。依頼主の守秘義務も、マノーラ騎士団相手には致し方ないし、おれの感知していない問題だからな」
「いいえ。なにを運んでいるのか、本人はわかってなくても、所持しているだけで罪になるものもあるんです。そう、そこに入っている商品と同様にね」
とロメオがアドリエンのメッセンジャーバッグを刺すように見た。
同情するよ、とレオーネは肩をすくめる。
「元締めからはほど遠い末端だから、本人もなにを運んでいるのか、中身の意味まではわかっていないかもしれないもんね」
「時に、あなたはどこからここまでやって来ましたか? ヴェリアーノではないか、との情報を受けていますが」
アドリエンはじりじりしたように喚き出す。
「お、おまえら! なんなんだよ! 知らないって言ってんだろ!」
自転車を旋回させ、来た道を戻るように走り出した。
その後ろ姿に向かって、レオーネがカードを投げる。
「行かせない。《マテリアル・バニッシュ》」