25 『モルグ』
「ご存知のように、一階はモルグだ」
モルグ。
すなわち、死体安置所である。
死体を保管しておく場所として、一階部分が使われていた。
しかも、外から見るより随分と広い。
「病院の敷地にもまたがってるんだったか」
「隣の病院で死んだ人間や、病院に運ばれてきたが直接私が調べるべき死体が、ここにはやってくる」
細長い引き出しがずらっと並び、それらは三段に重なっていて、だだっ広い部屋の真ん中には、大きなテーブルが三つある。
その上に死体を置いて調べるのである。
今は三つあるテーブルのうちの一つに死体が置かれていた。しかし、シートがかぶせられていて、死体は完全におおわれていた。
ロメオはつぶやく。
「久しぶりに来たな」
「引き出しは冷凍の棺桶。ここだけでいくつの死体が収納できるんだろうか」
「八十四体だ。今は半分ほどが埋まっているから、そろそろ不審死のペースも落としてもらいたいものだ」
レオーネの疑問にも淡々と答えて、ファウスティーノは引き出しを開けた。
もわっと白い煙が溢れる。
ファウスティーノは、シートに包まれた死体を引っ張り出す。それを今度はテーブルに置いた。
シートから死体を取り出して、
「見てくれ」
と言った。
死んで冷凍されていたこと以外は、なんの変哲もない普通の人だった。四十歳くらいの男性である。パンツ一枚だけで、肉体がよく見える。
「どこかおかしいのか?」
「目立った外傷もないし、不自然な痕なども残っていないな」
はあ、とファウスティーノは嘆息した。
「だからおかしいのだ。死ぬにはそれだけの理由があるべきなのに、その原因がわからない。だから不審死なのだろうが」
「はは、ジョークだよ」
レオーネが軽やかにそう言って、ロメオはファウスティーノに抗議をしておく。
「ワタシは、あまりにも死体が綺麗だから、不審死はこの死体なのかと思っただけです」
「そろってわかりにくいやつらだ。まあいい、とにかくこの死体は私が解剖しても死因がまるでわからなかったのだ」
ロメオは知っているが、ファウスティーノも好きで死体を切っては調べ回しているわけではない。
不自然な死体に対して、依頼を受けて解剖する。
明らかにおかしな状況というのがあり、それが今回の不審死だった。
「私は闇医者だが、病理学者でもある。その研究心から聞きたい。おまえたちはなにを知っているのだ? 不審死の原因となるようなことがあるのだろう?」
当然聞かれる質問だと思っていた。
だから、レオーネとロメオは顔を見合わせて、意思疎通する。打ち合わせるまでもなく、ファウスティーノには話すべき内容だ。ファウスティーノは秘密を漏らさないし、情報は保護してくれる。
信頼関係ある相手だが、ロメオは釘を刺しておく。
「ファウスティーノさん。ここからの話は外部に漏らさないで欲しい内容です」
「わかってるさ。私が秘密を守らなかったことがこれまであったか?」
「いいえ」
ロメオが微笑むと、ファウスティーノは得意そうな顔をして、それから目で促した。二人を交互に見る。
「オレから説明しよう」
「頼む」
とファウスティーノはレオーネに向き直った。
「ところでファウスティーノ。環境問題に関心はないかい?」