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17 『生死の境目』

「見て分かったろう。あれがモンスターだ」


 モレノはもう、倒れた通行人を見てはいなかった。

 死んだ通行人の周りには人が集まりだして、騒がしくなってきた。ロメオも駆け寄ってやりたいが、今やれることはない。むしろ、これからの自分たちの取り組みで、モンスター化という事件を止めなければならない。そのためには、まずはモレノから知り得る限りの情報を教えてもらわねばならない。

 レオーネが冷静に聞いた。


「エッグはどれくらいの頻度で割れているんですか」


 もし今目の前に漂うエッグのうち百個に一個でも割れてしまえば、かなりの人間が短時間に死んでゆく。

 だが、その心配はいらなかった。


「わしの観測する限り、モンスターのタマゴが割れるのは、多くても一つの都市につき一日に一つくらいだ。ある程度以上の人口を抱えた都市の話で、自然が多く人の少ない場所はわからん。報告も聞かない。都市での不審死では、突然死や事故死などを合わせているし、わしが把握・分析しきれないケースもある。とはいえ、せいぜいそんなものだろう。マノーラではやや多く、一日に二つから三つ割れることもある。特に、こういう真夏なのに雪が降るような、異常気象の日はな」

「マノーラだけ……」


 そんなロメオの疑問にも、モレノはさらっと言う。


「他にも多い場所はあるかもしれない。だが、わしの知る限りここだけだ。不思議だよ。知っての通り、このマノーラは気候の乱れやすい地ではない。四季の変化が大きい(せい)()(おう)(こく)では《気象ノ卵(ウェザー・エッグ)》やモンスターが多いかと思いきや、そうでもないのだからな」

「他のエッグからは、元の『大気(アトモス)の子供』が生まれることもあるんですか?」


 レオーネが聞くと、モレノはうなずく。


「ああ。生まれる。その数は減ったが、生まれている。『大気(アトモス)の子供』たちも、まだ人間を完全に駆逐すべきか迷っているのだと思う。今が、環境と人類を守る最後のチャンスということだ。人類が死ぬか生きるか、その境目にある。わしはそう考えている」

「なるほど」


 つぶやき、レオーネはコーヒーを飲み干した。




 三人は話を終え、カフェを出た。

 モレノとは一度、ここで別れる。


「いつでもオレとロメオにご連絡ください。こちらからもなにかわかったらお伝えしますし、ご相談させていただけたらと思っています」

「わかった。そうさせてもらおう」

「ありがとうございました」


 ロメオが礼を述べると、モレノはすたすたと歩いて行ってしまった。

 モレノの姿が小さくなると、レオーネが口を開いた。


「どう思う? ロメオ」

「環境汚染の問題は、人類が目を向けるべきものだ。それには同意する。また、《気象ノ卵(ウェザー・エッグ)》の存在も『大気(アトモス)の子供』も、そしてそのモンスター化も実際に見て確かめたから、ワタシは信じるよ」

「それで? 気に掛かることもあるんだろう?」

「モンスター化だけが引っかかる」

「ふむ」

「なぜ、モンスター化するか」

「うん。モレノさんの仮説に確証はまだない」

「それから――なぜ、マノーラだけで多く発生するのか。マノーラになにかの原因があるのか。あるいは、何者かが意図的にエッグに影響を与えているか」

「ああ、そうだな。どちらかはあるだろう」

「レオーネはどう思った?」

「オレもおおむねそんな感じだ。が……」


 言葉を切ったレオーネが、カードを一枚手に取った。

 ここまで、レオーネはずっと手札のカードを使っていた。なにかの人助けなどに使用することで、手札を入れ替えていたのである。カフェで話している間もそうしていたおかげか、レオーネの微笑みは明るい。


「直接聞こうじゃないか。ロメオの記憶に」


 そう言って見せたカードは、ロメオが待っていたカードだった。


(せい)()(おう)(こく)武賀(むが)(くに)(たか)()()(すい)(ぐん)の副長にして『鷹不二のナンバー2』(たか)()()(とう)()の魔法で」

「来たか」

「我々の友人にして、ロメオの敬愛する知恵者。彼の魔法ならば、記憶を呼び起こせる」

「さっそく頼む」

「了解」


 レオーネは魔法を唱えた。

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