14 『大気の子供』
「昔のエッグではない?」
カードをいじっていたレオーネが、目を上げた。
続けて、ロメオも疑問を向ける。
「エッグからはモンスターが生まれる、といったこともおっしゃいましたね。モンスターとはなんなのです?」
「しゃべれる範囲で結構ですよ」
刑事質問というより、くつろいだカフェでの会話といった調子で、レオーネは穏やかに言った。
モレノは話してくれた。
「元々、エッグからは特殊な生物が生まれていたらしいのだ」
「特殊な生物。それがモンスターですか」
「そうだ。悪さをしないモンスター――精霊のようなものだ。《気象ノ卵》から生まれた彼らを、マンフレード博士は『大気の子供』と呼んだ。それらは環境を整えるために生まれる。地球の自浄作用を高める働きを助ける存在なのだ。ただし、人の目には見えない」
レオーネはコーヒーを一口含み、うなずいた。
「なるほど。気象を保つ《気象ノ卵》、そのエッグから生まれたモンスターもまた、環境を整える手伝いをしてくれる。だが、エッグの性質が変わることで、モンスターは人間を駆逐しようとするようになった、と」
重々しく、モレノは顎を引く。
「環境問題の悪化によって、『大気の子供』たちはその働きだけでは地球の自浄作用を助けることが難しくなってきた。その時、『大気の子供』たちはなにを考えたか」
この問いには、ロメオが回答する。
「地球の自浄作用を高める方法は二つある。一つは、《気象ノ卵》と『大気の子供』たちをもっと強力あるいは活発にすること。もう一つは、環境汚染の原因を排除すること。つまり、原因たる人類の駆除」
モレノはレオーネとロメオを順番に見て、初めて笑った。しかし皮肉も含まれた、悪友に向けるような笑みだ。
「話せるじゃないか、おまえたち」
「オレとロメオは、人の話を聞くのが好きなんですよ」
それには相槌も打たず、モレノは話を続けた。
「まさに、『大気の子供』たちはこう考えた。『地球破壊する人間という生物の駆逐をしよう』、とな。そして、現在のエッグはその段階にある。『大気の子供』たちは人間の敵となるモンスターになってしまい、本来の働きを失ってしまった。こうなったら、気候はますます乱れる。異常気象は天災を生み、天災は次なる災害を引き起こす。そうした連鎖は環境をさらに破壊してゆく。歯止めが利かなくなった地球は、やがて氷河期に戻る。そうなれば、生物は死滅する。人類の滅亡であり、世界の滅亡だ。世界はいずれ再生できるだろう。だが、その時、我々人類はそこにいない。別の類人猿がいつか生まれるのか、恐竜のような生物が地上を支配するのか。そんな未来を待つばかりだ。人類はゼロに還る。氷河期を迎えた我々に、次はない。わかるだろう?」
「はい。しかし、ワタシたちはそれを信じるだけの事象をまだ見ていません。《気象ノ卵》かモンスターをこの目に見ることができれば、解決策を共に考えることができるかもしれないのですが」
ロメオとしては、モレノに協力する考えだった。
口には出さずともレオーネも同意見である。
だから、モレノが、
「できることなら、わしも見せてやりたい。いや、見てもらいたい。だが、わしにしか見えないのだ」
と言ったときも、こんな提案をしてみせた。
「では、モレノさん。あなたの魔法を盗ませてください」